
近年、新たな資金調達の方法として普及しつつある「クラウドファンディング(通称:クラファン)」。しかしその仕組みやメリット、参加方法など、詳しく知っている方は少ないかもしれません。
本記事ではクラウドファンディングの仕組みから種類、プロジェクト形態、実施の流れまで、その基本を解説します。資金調達を検討している方も、支援・投資を検討している方も、ぜひ参考にしてください。
クラウドファンディング(crowdfunding/通称:クラファン)とは、インターネット上の不特定多数の人(crowd)から事業資金を調達する(funding)仕組みです。
基本的な流れとしては、資金調達者(法人・個人・自治体など)がインターネット上で達成したい事業計画を周知し、それに賛同した支援者から資金を募ります。その資金を活用することで資金調達者は事業計画を実現し、成果の一部が物品等の形で支援者に還元される仕組みです。
最近ではインターネットを介した資金調達の方法としてテレビなどでも取り上げられ注目されているクラウドファンディングですが、その原型は古くから各国にあったようです。例えば、パリにあるルーブル美術館の展示品の購入・修復資金の一部は、市民からの出資で賄われてきました。「自由の女神」の台座や東大寺の大仏も、民衆からの出資によって実現されたという記録があります。
インターネット上で実施する現代版のクラウドファンディングは、2001年にアメリカで始まったとされています。日本では2011年の東日本大震災をきっかけに、復興支援のためのクラウドファンディングが急速に拡大しました。21世紀以降のインターネットの普及に伴い、クラウドファンディング市場は現在も成長を続けています。
初めに、クラウドファンディングのメリットと注意点を、資金調達者目線で解説します。
資金調達者から見るクラウドファンディングのメリットは、柔軟な資金調達ができる点です。個人で資金調達をする場合や金融機関からの資金調達が困難な場合にも、クラウドファンディングを活用することで、賛同してくれる人や投資家などから事業資金を募れます。
また市場に製品を出す前にユーザーの反応を見る「テストマーケティング」の場として活用することも可能です。クラウドファンディングを実施することでユーザー巻き込み型マーケティングを展開し、製品の宣伝に繋げることもできるでしょう。
クラウドファンディングを立ち上げたからといって、必ずしも目標金額を達成できるとは限りません。クラウドファンディングで集める資金を頼りに事業を計画した結果、思うように資金調達ができず、最悪の場合は事業を成立させられないケースもあるでしょう。
事業計画時には、目標金額だけでなく、目標達成までの道のりや達成確率、達成できなかった場合の資金繰りなども計画することが重要です。
次に、クラウドファンディングのメリットと注意点を、支援者目線で解説します。
支援者から見るクラウドファンディングのメリットは、資金調達者(作り手)の顔やプロジェクトの進捗が見える点です。クラウドファンディングの実施過程では資金調達者と支援者間で双方向のコミュニケーションが可能で、支援者の声が製品に反映されることもあります。
出資したお金がどのような用途で使われているのか、自分の支援がどのような形で社会に役立てられているかを実感しやすいでしょう。
リターン付きのクラウドファンディングも存在しますが、予期せぬトラブルでリターンが提供されない可能性もあります。
例えば金銭的なリターンを前提としていたが出資先企業が経営不振に陥った、農作物のリターンを前提としていたが自然災害で収穫が困難になったなどのケースです。公開されているプロジェクトの注意点をよく読み、トラブルが起こった際の対応についても把握しておく必要があります。
クラウドファンディングは資金調達方法や支援者へのリターン方法によって3種類に大別されます。
購入型クラウドファンディングとは、資金調達者の事業計画案に対して、支援者がリターンを受けられることを前提にお金を出す仕組みです。支援者はリターンとして、完成品の受け取りやサービス利用の権利を得ます。
資金が潤沢でない個人が商品開発をしたい場合や、実際にどの程度売れるかが未知数の製品のテスト販売の機会として活用しやすいのが特徴です。
資金調達者から見る購入型クラウドファンディングのメリットは、製品やサービスを作る前段階で必要資金を得られるため、予算が少なくても事業を始められる点です。
また支援者は「こんな製品・サービスがあったらほしいな」と思った事業に対して出資することで、ほしいものを受け取れます。仕組みもわかりやすく、ショッピング感覚で気軽に参加できるクラウドファンディングといえるでしょう。
寄付型クラウドファンディングとは、資金調達者の事業計画に対して、支援者が寄付という形でお金を出す仕組みです。前述の「購入型」と違い、完成品やサービスなどのリターンは基本的に発生しません。ただしプロジェクトによっては、活動報告や感謝状などをリターンとして受け取れる場合もあります。
資金調達者から見る寄付型クラウドファンディングのメリットは、リターンが発生しない分、集めた資金を事業そのものに使える点です。
寄付型クラウドファンディングは災害時の復興支援など、社会貢献色の強い事業が多いため、支援者はインターネットを通じて気軽に寄付できます。
ふるさと納税とは、自身が選んだ自治体に寄付をすることで、寄付額のうち2,000円を超える部分において、所得税および個人住民税の控除が受けられる仕組みです。自治体は税収を増やすことができ、支援者は確定申告の際に寄附金控除を受けられます。
寄付型クラウドファンディングとの大きな違いは、多くの自治体が返礼品などのリターンを設定している点です。支援者から見ると、前述の「購入型」と「寄付型」の良いとこ取りの仕組みといえるでしょう。
金融型クラウドファンディングとは、主に企業が不特定多数の支援者(投資家)から資金を調達する仕組みです。支援者はリターンとして、株式や利子・配当収入などの金融商品を受け取ります。
金融型クラウドファンディングは金銭的なリターンを前提とする点や、「金融商品取引法」などの法規制の対象となる点で、「購入型」や「寄付型」とは性質が大きく異なります。
金融型クラウドファンディングはさらに「融資型」「ファンド型」「株式投資型」の3種類に分けられます。
支援者からの貸付金をクラウドファンディング事業者(仲介者)が集め、資金調達を必要とする企業に融資する仕組みです。支援者はリターンとして、貸付金に対する利息を受け取ります。
融資型クラウドファンディングのメリットは、経営難などにより金融機関からの融資が難しい企業でも資金調達ができる点です。支援者にとっては、事業支援と資産運用を同時にできるのが魅力です。ただし支援者側は、企業の経営不振による貸し倒れや元本割れのリスクも想定しておく必要があります。
特定の事業を実施するために、資金調達者が支援者(個人投資家)から出資を募る仕組みです。支援者はリターンとして、プロジェクトの成果や出資額に応じた分配金を受け取ります。モノやサービス、割引券などの成果物を受け取れる場合もあります。
支援者目線で見ると、お金を「投資する」ファンド型は、お金を「貸し付ける」融資型よりもハイリスク・ハイリターンといわれています。ファンド型は投資した事業の売り上げによって分配金の利回りが決まるためです。
事業が成功すれば大きなリターンが期待できますが、失敗すればリターンが得られない可能性が高いため、資産運用という観点から見るとハイリスク・ハイリターンといえるでしょう。
なお資金調達者としてファンド型クラウドファンディングを立ち上げるには、金融商品取引法に基づき「第二種金融商品取引業」への登録が必要です。
企業が支援者に自社株を販売することで資金調達する仕組みです。支援者はリターンとして、非公開株や未上場株を取得できます。日本では2017年に登場し、比較的新しい形態のクラウドファンディングとして注目されています。
株式投資型クラウドファンディングのメリットは、ベンチャー企業の株式を売買できる点です。一定の要件を満たせば、ベンチャー企業への投資に際して税金の優遇措置を受けられる「エンジェル税制」の対象となるため、事業支援・資産運用・節税対策を同時にしたい個人投資家に向いています。
なお資金調達者として株式投資型クラウドファンディングを立ち上げるには、金融商品取引法に基づき「第一種少額電子募集取扱業」への登録が必要です。
クラウドファンディングのプロジェクト形態は、All-in型とAll-or-Nothing型の2種類があります。詳しく見ていきましょう。
All-in型とは募集期間や目標金額の達成の有無にかかわらず、支援者が一人でも現れた時点でプロジェクトが成立する形態です。
プロジェクト成立までのハードルが低いことから、緊急性を要するプロジェクトの場合や、寄付型クラウドファンディングに適しています。
一方、リターン付きのクラウドファンディングをAll-in型で立ち上げる際には注意が必要です。支援額がたとえ1円であったとしても、支援者へのリターン義務が生じるためです。
仮に目標金額に満たない場合でも事業計画を実行し、支援者にリターンをする義務が生じるため、クラウドファンディング開始時点で必要最低限の費用が確保されていることが必須です。
All-or-Nothing型とは、募集期間を設けて資金調達をする形態です。募集期間内に目標金額を達成した場合のみ、プロジェクトが成立したと見なされます。募集期間内に目標金額に満たなかった場合にはプロジェクトが成立せず、出資金は支援者に返金されます。
リターン付きのクラウドファンディングや予算的制約が厳しいプロジェクトの場合、All-or-Nothing型を選択すると安心です。
最後に、クラウドファンディングに参加する際の基本の進め方を、資金調達者の場合と支援者の場合に分けて紹介します。
クラウドファンディングで資金調達をする場合、インターネット上のクラウドファンディングサイトを介して出資を募ります。具体的な流れは以下の通りです。
金融型クラウドファンディングを立ち上げる場合は法規制の対象となるため、より複雑な手続きが必要となる場合があります。クラウドファンディングサイトの注意事項を確認のうえ進めましょう。
クラウドファンディングで支援をする場合、クラウドファンディングサイトに掲載されている募集情報をもとに支援先を決定します。具体的な流れは以下の通りです。
金融型クラウドファンディングで金銭的なリターンを受ける場合、金額によっては確定申告が必要となるケースがあります。
2011年、東日本大震災の年に日本初のクラウドファンディングサイトといわれる「READYFOR」が開始されて以来、多種多様な事業がクラウドファンディングで実現されるようになりました。
矢野経済研究所の統計によると、2021年度の国内クラウドファンディング市場規模は、1,642億2,100万円に達しています(支援額ベースで算出)。「クラウドファンディング市場調査報告書」によると、市場規模の内訳としては、融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)が多いようです。
個人・未上場企業・地方自治体など、さまざまな人にとっての新たな資金調達方法として、クラウドファンディングは今後も発達していくことが予想されます。
クラウドファンディングとは、インターネットを介して不特定多数の人から事業資金を調達する仕組みです。
クラウドファンディングに参加するには、事業資金を募る「資金調達者」になる方法と、興味のあるプロジェクトを応援する「支援者」になる方法があります。
法人・個人・地方自治体など、さまざまな立場から参加できる点が魅力の一つです。この記事をご覧になったあなたもぜひ、夢や目標、アイディアをクラウドファンディングで実現してみてはいかがでしょうか?
参考文献(順不同)
国税庁「No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1155.htm
経済産業省「エンジェル税制とは」
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angeltax/index.html