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出前いま・むかし
vol.97

料理を配達するだけじゃない?
出前ツールのトリビア

このページでは、出前=フードデリバリーに欠かせないツールのトリビアを集めてみました。おなじみの岡持ちや出前機にまつわる意外なエピソードとは……?

寿司からピザまで運ぶオールラウンダー

 中華料理店ならアルミ製、寿司屋なら木製で桶型と、出前と聞くと“岡持ち”を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。岡持ちは、田植えや稲刈りなどの野外作業の際、食事や食器を運ぶために生まれたといわれています。江戸時代、にぎり寿司を大成させた華屋与兵衛も、自身の屋台やお店を出す前は岡持ちを使って行商していたのだそう。
 そんな岡持ちは、ピザの宅配に使われていたことも。アメリカのピザチェーンが日本に上陸する以前の1970年代、東京のピザ専門店が岡持ちを使ってそのおいしさを届けていたといいます。

なぜ“岡持ち”と呼ぶ?

 岡持ちの語源には諸説あり、一説には「オカ」には「一人称の傍」という意味があり、人が傍らに下げて持ち運びするから「オカモチ」と呼ばれるようになったとか。また、「ヲカ」が「ホカ」の異形で自宅の外や他所を指すことから生まれたという説や、食べ物を贈答する際に運搬する容器「ホカヰ(行器)」から取られたという説もあるんです。

オリンピックの〇〇も出前した?

 バイクや自転車が傾いても振り子のように動いて水平を保ち、また、シートでほどよく食器を押さえることで左右の揺れも防いでくれる出前機。昭和30年代、交通事情の変化とともに登場した発明品は、料理だけでなく、オリンピックの聖火を運んだこともあったとか。
 といっても出前機で聖火リレーをしていたわけではなく、リレーの走者が持つトーチの聖火が万が一消えてしまった場合に備えて、予備の聖火を搭載して伴走していたのだそう。昭和39(1964)年の東京オリンピックや昭和47(1972)年の札幌冬季オリンピックで活躍したといいます。

出前迅速、ソバはノビない

 蕎麦屋や中華料理店の店先に停まっている出前用バイク。その定番といえばホンダのスーパーカブではないでしょうか。昭和33(1958)年に誕生したスーパーカブは発売当初から大ヒット商品でしたが、販売3年目の昭和35(1960)年により多くの人に魅力を伝えるため、大々的な広告キャンペーンを展開します。その第1弾が「ソバも元気だ おっかさん…」というキャッチコピーで、蕎麦屋の出前持ちをモデルにした雑誌広告でした。
 本田宗一郎がスーパーカブを“出前持ちが片手で運転できるバイク”と評したことをきっかけに考案されたという広告は、蕎麦屋で修業する青年が実家の母親へ手紙と写真を送るというストーリーで、「この店にはスーパーカブがあるのが魅力です 出前迅速、ソバはノビないとあって、お得意さんはガ然ふえました」と利点が語られています。これが大きな反響を呼び、蕎麦屋をはじめ4000軒ものお店から注文が入ったそう。ちなみに、写真のモデルになったのは東京・田園調布の蕎麦屋で実際に働いていた店員。同店はスーパーカブ好きにとっても人気の場所だとか。

家庭用ではマネできません

 出前で注文した蕎麦やラーメンは、スープがこぼれていないことが当たり前。それは前述の出前機のおかげもありますが、ラップも重要な役割を果たしていますよね。指でつついてもちょっとやそっとの力では破れず、ピッタリとはりついて中身を守るその仕事ぶりは、業務用ラップだからこそなせる技。出前で使われているラップの多くはひっぱり特性に優れ、ピタッとはりつく性能もあるポリ塩化ビニル製で、これを専用の機械ではりつけることでおいしさを閉じ込めているというわけなんです。

さまざまな発明品に支えられ発展してきた出前=フードデリバリー。これまであまり縁がなかったという人も、おうち時間をおいしく彩るために活用してみてはいかがでしょう?

参考文献(順不同)
植原路郎著、中村綾子編『改訂新版 蕎麦辞典』(東京堂出版)/吉田金彦編『衣食住語源辞典』(同)/『POPEYE 2015年9月号』(マガジンハウス)/本田技研工業(ホームページ)/ドミノ・ピザ ジャパン(同)/読売新聞(同)   等

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