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出前いま・むかし
vol.97

職人芸にバイクも生んだ
出前いま・むかし

ライフスタイルの変化で年々拡大傾向にある“中食”市場。なかでも出前=フードデリバリーは、コロナ禍による飲食店への来店自粛もあって、よく利用するようになったという人も多いのでは? 今月の「Trace」は、さまざまな発明品とともに発展してきた日本の出前文化を辿ってみます。

江戸で花開いた出前文化

 出前=フードデリバリーの文化が広まったのは江戸時代中期といわれています。世界有数の人口密度を誇った大都市・江戸では、天秤棒に桶や籠をぶら下げて、蕎麦や寿司、豆腐などの食材を町民に売り歩く“棒手振り”や“振り売り”が現れました。京都では、注文に応じて調理された料理を客先に届ける仕出し文化も登場。客人へのおもてなしや年中行事、行楽のお弁当として今でも受け継がれています。

片手運転の職人芸

 明治・大正時代に入ると、自転車の普及や出前膳と呼ばれる平盆の登場で出前の風景は様変わり。せいろやどんぶりを高々と積み上げ、“手持ち”や“肩持ち”と呼ばれるスタイルで曲芸のように配達する出前持ちの姿が見られるようになります。出前持ちの体力や経験にもよりますが、膳を肩にのせる「肩持ち」なら、かけは30、もりは50を限度に届けることができたとか!
 昭和30(1955)年にはそんな出前持ちたちの腕試しとして、東京・浅草は雷門周辺の通りを使い、出前持ち競争と積立競争が行われたといいます。しかし、高度経済成長期に入って自動車が普及し始めると、片手運転で街中を走り抜ける出前持ちとの事故が増加。通行人にも迷惑をかけず安全に出前ができるようにと、バイクや自転車に取り付ける出前品運搬機(出前機)が蕎麦屋の店主によって考案されました。

宅配ピザの上陸で開発されたモノ

 出前=フードデリバリーを語る上で欠かせないのが宅配ピザ。1970年代あたりからファミリーレストランや喫茶店といった外食で楽しまれていたピザは、1985年にドミノ・ピザがアメリカから上陸し、1987年に日本初の宅配ピザチェーンであるピザーラが開業したことで一気に普及しました。
 宅配ピザといえば、屋根付き3輪タイプのスクーターがおなじみ。今ではピザだけでなく、ファストフード店のデリバリーサービスなどでも活躍していますが、このスクーターは道路が狭く渋滞が多い日本の交通事情に配慮して、ドミノ・ピザがバイクメーカーと共同開発したものなんです。

フードデリバリー新時代!

 インターネットの普及は、お店に直接電話をして注文することが主流だった出前=フードデリバリーのあり方を大きく変えました。2000年には出前館が日本初の宅配ポータルサイトをスタート。大手飲食チェーン店を中心に、ネット経由での注文を浸透させる立役者となります。
 2016年にはUber Eatsが日本に上陸。同様のサービスも次々と登場し、それまでデリバリーを行っていなかった個人経営の飲食店からも注文できることや、キャッシュレス決済に対応していることなどからユーザーの裾野を広げています。配達代行という新たなデリバリーの仕組みによって、出前持ちならぬ配達員が街中を走り抜ける光景もおなじみになりました。

最近では客席のある実店舗を持たず、キッチンのみの省スペースで調理した料理をデリバリーしたりテイクアウトできたりする専門店も増え、出前=フードデリバリーはますます活況を呈しています。出前=フードデリバリーの話題は次ページでも。

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