なぜ客席は3クラスに分かれているの? 機内食ってそもそもいつ始まった?……など、エアラインを使っているとふと疑問に思うことを、このページでは掘り下げてみます!

エアラインの国際線といえば、エコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスの3種類に分かれ、最近ではプレミアムエコノミーも定着してきました。もともと、エアラインの黎明期はファーストクラスが基本でしたが、1970年代に大型機が主力となったことが、現在のクラス分けの大きなきっかけとなったそう。
大型機で多くの旅客を運べるようになったものの、それまでの主力客だったビジネス客と観光客だけでは座席を埋めることが難しく、各社はパッケージツアーを利用する人を対象にした割引率の高い団体運賃を導入します。これにより、正規運賃で搭乗する乗客との差別化が必要になり、エコノミークラスとファーストクラスの中間となるビジネスクラスが生まれたのです。
中間クラスとはいえ、今ではビジネスクラスはフルフラットシートが当たり前。例えば、デルタ航空ではスライド式ドアでプライベートな空間を確保できたり、カタール航空ではビジネスクラスで世界初となるダブルベッドを導入し、4座席をそれぞれ向かい合わせにして家族や友人同士で個室にできるシステムもあるんです。
なかなか乗るチャンスのないファーストクラスですが、サービスはやはり一流。例えば、エティハド航空が運航するエアバスA380の最上級クラスとなるザ・レジデンスは、キャビンにベッドルーム、リビングルーム、シャワールームが完備されている超VIP仕様なのだそう。
また、シンガポール航空は世界で初めてエアバスA380のファーストクラスを「個室化」し、スイートの個室はダブルベッドルームにもできるとか。至れり尽くせりの空飛ぶ高級ホテル、いつかは乗ってみたいですね。

長時間のフライトの楽しみといえば機内食。機内食のサービスは1920年代から始まり、ボーイング航空(現ユナイテッド航空)が1930年に女性の客室乗務員を初めて採用すると、フルーツポンチやフライドチキン、コーヒーなどを配り、好評を博していたようです。
現在はバリエーションに富んださまざまな機内食が登場し、ミシュランの星付きスターシェフがメニューの監修に当たることも珍しくなくなりました。ファーストクラスのサービスとして、機内にシェフが搭乗し、調理や料理の盛り付けを行うエアラインもあるほどなんです。
お国柄を反映したメニューで人気を集めるエアラインも少なくありません。例えば、台湾のエバー航空では、名店「鼎泰豊」の小籠包を提供するため、専用のスチームオーブンまで開発。中国の中国南方航空のビジネスクラスでは、公認茶芸師の資格を持つ客室乗務員が、伝統的な中国茶を淹れてくれるのだとか。国内のエアラインも炊きたてのご飯を提供するサービスを始めたり、大手飲食チェーンとコラボレーションしたメニューを考案したりと、バラエティに富んだメニューが提供されています。
さまざまな国の人が利用するエアラインですから、それぞれの嗜好や宗教に合わせた機内食も用意されています。イスラム教徒向けの豚肉を使わないハラルミールをはじめ、ベジタリアン向けには野菜中心のものや、卵や乳製品も含めた動物性食品を使わないビーガンミール、ユダヤ教徒向けに戒律に従って調理されたコーシャーミールなどさまざま。
さらに、糖尿病の乗客向けに低脂肪の料理が中心の糖尿病食や、高血圧、心臓病などを持つ乗客向けの減塩食、揚げ物や脂肪の多い料理を控えた柔軟食など、その種類は多岐にわたるんです。

エアラインに欠かすことのできない客室乗務員。今でも人気の職業のひとつですが、そのルーツはエアラインの黎明期、1920年代にさかのぼります。
当初、客室乗務員は男性の仕事でしたが、女性が搭乗し始めるきっかけとなったのが、エレン・チャーチというアメリカ人の女性看護師のメッセージでした。「男性のスチュワード(客室乗務員)ばかりでなく、女性も採用したらきめ細かいサービスができる」と、彼女が送った手紙を前向きに検討した当時のボーイング社は、年齢25歳以下、体重52kg以下、身長163cm以上、看護師の資格を持つ女性という条件で募集をかけ、約1000人の応募者から選んだ7人と提唱者のエレンを初の女性客室乗務員に採用します。
1930年、オークランド〜シャイアン間を飛ぶ機体で業務を始めた彼女たち。機内サービスの際はナースの白衣・白帽に着替えるというスタイルで、チケットのチェックや機内食の手配から、荷物運びや機内の清掃、燃料補給まで任されるハードな仕事内容でした……。
ちなみに、日本の客室乗務員は1931年、東京〜静岡間を運航していた東京航空輸送社の愛知AB1型水上機に、エアガールと称した客室乗務員が搭乗したのが最初。「これから離水します」というアナウンスが、その第一声だったそう。

最後は、特別仕様の旅客機のお話。みなさんは2017年11月にトランプ大統領が来日した際に乗ってきたアメリカ大統領専用機、通称“エアフォースワン”を覚えていますか? この専用機は、ボーイング747-200Bをもとにした機体で、核攻撃を受けた際にも被害を最小限に食い止められる特別な防御装置をはじめ、6本のスペアタイヤや、通常の旅客機には積まれていない格納式の階段、空中給油を受ける装置などが搭載され、どんなトラブルにも対応できる「空飛ぶ執務室」と呼ばれているんです。バックアップとして同じ機体が2機用意されており、後継機の導入が進められていたところ、トランプ大統領が大統領就任前に、莫大な建造費に不満を示して「キャンセルする!」とTwitterで表明したことも話題になりました。
世界には旅客機をベースに、さまざまな目的で改造された専用機が存在します。世にも珍しい、世界の専用機も見てみましょう。
2010年代に西アフリカで猛威をふるったエボラ出血熱。ドイツ最大手のルフトハンザ航空は、エボラ出血熱の患者を安全に輸送するための専用機(エアバスA340-300がベース)を2014年11月に開発しました。医療機器を搭載し、隔離された機内で移動治療しながら、専門治療ができるヨーロッパの病院へ搬送するものでしたが、2015年に流行の終息が宣言されたことで出番はなかったそう。
医療機として活躍する旅客機はほかにもあり、ニューヨークに本部を置く国際的なNPO、オービス・インターナショナルは、旅客機を“空飛ぶ眼科病院”に改造して、十分な眼科医療が受けられない地域で治療に当たっています。医師、看護師、麻酔科医などが乗り込み、パイロットはボランティアで参加するのだそう。この専用機のユニークなところが、治療だけでなく眼科医の育成にも注力していること。機内にはオペを見学できる教室も完備し、現地の医師に最新の医療技術も教授しているんです。
1997年に公開された映画「コン・エアー」は、囚人専用の輸送機を舞台にしたサスペンス・アクションでしたが、実はこの輸送機、アメリカに実在しているんです。
映画のタイトルそのまま、“Con Air”と呼ばれているエアラインの正式名称は、“Justice Prisoner and Alien Transportation System”。ボーイング737-400やマクドネル・ダグラスMD-80などのジェット旅客機を使って、年間で26万人以上の囚人や犯罪者を護送する世界最大の囚人輸送システムなのだそう。乗り心地はいかほど……。
現在、飛行機の製造は世界各地で分担されているのが基本。そうした各部品を最終組立工場まで運ぶのが、専用の大型貨物機です。ボーイング747-400LCF、通称“ドリームリフター”や、エアバスA300-600STの“ベルーガ”などがそれに当たり、巨大な貨物室を設けるために機首から後ろの胴体部分が大きく膨らんでいるのがその特徴。ひと目見たら忘れられないユニークなデザインで、日本では中部国際空港でドリームリフターを見られるチャンスがあるといいます。
約30年後の2050年に向けてエアバス社が提案しているのが、機体の壁面がガラスのように透明になる旅客機! 日が沈んだら星空を眺めながらフライトを楽しんだり、機内に会議やゲームを行えるアクティビティゾーンが用意されるといいます。また、世界の航空機メーカーが電気旅客機の開発も進めているとか。近い将来、空の旅がどんなものになるのか、これからも注目していきたいですね。
参考文献(順不同)
山本忠敬『飛行機の歴史』(福音館書店)/鈴木五郎『飛行機の100年史―ライト兄弟から最新鋭機まで、発達の軌跡のすべて』(PHP研究所)/鈴木真二『飛行機物語―羽ばたき機からジェット旅客機まで』(中央公論新社)/酒井真比古・阿施光南『航空知識のABC 最新版』(イカロス出版)/チャーリィ古庄『大事なことは飛行機趣味から学んだ 旅客機を見れば世界が分かる』(イカロス出版)/『世界の機内食』(同)/乗りものニュース(ホームページ)/クーリエ・ジャポン(同)/ITmedia(同)/各航空会社ホームページ 等