宇宙飛行士用に開発された絶叫マシンや、真夏に大人気の生身の絶叫マシンのトリビア、さらに国内ジェットコースターの最新ランキングもご紹介します。

絶叫マシンとして、ジェットコースターとともに人気があるアトラクションといえば、垂直落下型の「フォール」ではないでしょうか。速度や斜度、長さで個性が出るジェットコースターと比べて、垂直落下というシンプルな構造のフォールは、もともと宇宙飛行士の無重力訓練用に開発されたものなのだそう。
1982年にアメリカ・ロサンゼルスのマジックマウンテンで初登場し、日本では1986年に東京都あきる野市の東京サマーランドと、兵庫県姫路市の姫路セントラルパークに設置されました。国内にお目見えしたときは、その怖さから「売店でパンツを販売している」という報道まであったとか……。どちらのフォールも、体験者が乗るボックスをエレベーターで頂上まで移動し、そこから前方に押し出して自由落下させる「フリーフォール」と呼ばれるものでしたが、現在主流となっている「タワー型フォール」は、中心に立つタワー部分の外側に体験者用のカートが取り付けられていて、タワー上部のモーターや特殊な空圧装置でカートを持ち上げ、落下時も強制的に落下させるため、その怖さは倍増しているといいます。
いま、日本一の高さを誇るのが、神奈川県横浜市の八景島シーパラダイスで稼働する「ブル—フォール」。高層ビル35階に相当する高さ107mから落下する速度は125km/h、最大加重は4Gに相当し、さらに「フェイント・ドロップ」という2段落としの仕掛けで、スリルもたっぷり味わえるようです。
乗り物に乗らない生身の絶叫マシンといえば、真夏の遊園地で大人気の「ウォータースライダー」! 日本一落下速度が速いウォータースライダーは、三重県桑名市のナガシマスパーランドにある「フリーフォールスライダー」と、熊本県荒尾市のグリーンランドのウォーターパークにある「ウルトラフォール」で、どちらも日本最大級の23mの高さから、60度の傾斜度が付いた直線コースを最高速度60km/hで一気に急降下するもの。生身の身体がふわりと浮くような感覚は、ジェットコースターにはないスリルに溢れています。
こうしたウォータースライダーは、体験者とコースの間に流れる水を潤滑油代わりにして、ほぼ無摩耗状態で滑る「ハイドロプレーニング現象」を利用していますが、実は体験者を安全にストップさせるために、ある仕掛けを用意しているのだとか。
例えば、高所から体重が重い人と軽い人が滑り落ちてくる際、体重が重い人のほうが運動エネルギーが大きくなり、体重が軽い人よりもブレーキに必要な距離が長くなります。しかし、スライダーに設けられたブレーキゾーンを体験者に合わせて伸縮させることはできませんから、一定の距離で安全に止まることができるように、ブレーキゾーンの水深を体験者に合わせて仕切り板などで深くし、ゾーン内の水の抵抗を増やして早く止まるようにしているのだそう。こうした対策によって、安全に楽しめるんですね。
話題を戻して、国内でいま一番スリルを味わえるジェットコースターはどこにあるのか? 「最高速度」「長さ」「高さ」「斜度」の各項目のチャンピオンたちをご紹介します。

まず、日本一の最高速度を誇るのが、富士急ハイランドの「ドドンパ」です(現在はリニューアルのため休止中)。エアランチ式と呼ばれる発射装置を利用することで、出発からわずか1.8秒で172km/hまで加速してしまう上に、最大傾斜も90度というコースターでした。これはレールがなかったら飛べてしまうくらいの速さなんだそう……。そして、今年7月15日にリニューアルオープン予定の「ドドンパ」は、名前も「ド・ドドンパ」に改名! 1.8秒で最高速度180km/hに到達し、コースには新たに世界最大級・直径39.7mのループが設置され、怖さがさらにアップします。

全長2,479mと、日本一どころか世界一の長さを誇るのが、ナガシマスパーランドの「スチールドラゴン2000」です。2013年のリニューアルで車両がフルモデルチェンジされ、座席を覆うカバーがないシンプルなスタイルとなり、開放感やスピード感がよりアップしているといいます。また、「スチールドラゴン2000」は最高部の高さが97m、最大落差も93.5mで日本一なんです。滑らかに駆け抜けるコースターの乗り心地は抜群といいますが、その怖さたるや……。

国内でダントツの斜度を誇るのが、富士急ハイランドの「高飛車」です。垂直のさらに上をいく斜度121度は、アルファベットの「R」のようにいったんえぐれるようなコース! 落ちそうになりながら滑走するスリルは、他のアトラクションの追随を許さないほど。また、高所から落ちる寸前のところで一時停止するという仕掛けも、落ちる瞬間までの恐怖を倍増させているとか……。
最後に、これからジェットコースターを楽しむ際にぜひ参考にしてほしい豆知識をご紹介します。みなさんはジェットコースターの前方と後方の席、どちらがよりスリルを味わえると思いますか?
例えば、車両がいくつも連結している全長が長いジェットコースターの場合、「らくだの背(キャメルバック)」といわれるようなアップダウンがコース中にあると、前後の車両が干渉し合い、前方の車両は頂点を過ぎてもスピードが加速しませんが、後方の車両はまだ背を駆け上っている段階でも前方車両が斜面を下り始めてしまうため、かなりのスピードでらくだの背を駆け下りることになるんです(図A)。
反対に、図Bのようなループにさしかかる場合は、ループを上る地点に達して減速するところでも後方車両から押されているために加速がかかり、前方車両のほうが強いGを体験できるのだとか。
視覚的な「落ちる恐怖」などのほか、最近では車両が1両になっていたり、急スピード発進で落下までの時間差が解消されているコースターもあるため、一概にどこの車両が怖いとは決められないものの、こうした原理を頭に入れておくと、ジェットコースターをより楽しめるかもしれませんね!

国内のジェットコースターランキングは上記でご紹介した通りですが、いま、アメリカ・オーランドで建設が進められている屋内型の複合型エンターテインメント施設・SKYPLEXでは、約174mの展望塔に巻き付くようなジェットコースター「Skyscraper」が準備中なのだそう。最高地点が約163mと、完成すれば世界最高の高さを誇るジェットコースターとなります。日本はもちろん、世界でも進化し続けている絶叫マシン。ぜひ今回の記事を夏のレジャーの参考にしてみてください!
(取材協力)
遊園地ドットコム
1996年から日本全国の遊園地・テーマパーク情報を掲載。東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオなどをはじめ、全国のパークガイドや割引情報、「ジェットコースターの歴史」や「お化け屋敷の作り方」「テーマパークでダイエット」など、アトラクションにまつわる様々な特集記事を掲載中。
https://www.yuuenchi.com
参考文献(順不同)
吉武泰水監修・杉浦康平編集『「めくるめき」の芸術工学(神戸芸術工科大学レクチャーシリーズ)』(工作舎)/八木一正『遊園地のメカニズム図鑑―ジェットコースターが落ちない理由』(日本実業出版社)/安原敬裕・上羽博人・澤喜司郎編著『交通と乗り物文化―人力車からジェットコースターまで(交通論おもしろゼミナール)』(成山堂書店)/橋爪紳也『日本の遊園地』(講談社現代新書)/各遊園地ホームページ 等