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餃子は日本の国民食
vol.120

ごはんにもお酒にも!
餃子は日本の国民食

2月に発表された総務省の家計調査で、2022年の2人以上1世帯あたりの餃子購入金額ナンバーワンが2年連続で宮崎市になりました。毎年結果が注目され、各地のまちおこしに餃子が活用されるのは、それだけ日本人の餃子愛が強い証。国民食ともいえる餃子は、日本でどんな道をたどってきたのでしょう?

主食からおかずにアレンジされた中国料理

 小麦粉をこねた皮で具を包み、ゆでたり、揚げたり、焼いたりして食べる料理は、世界のさまざまな地域で見られます。日本で餃子は江戸時代にはすでに書物で紹介され、水戸黄門も食べたといわれています。
 一般に広まったのは明治や大正時代。横浜や神戸の中華街、東京には専門店が登場し、婦人雑誌でレシピが紹介されることもありました。昭和時代には日本と中国を行き来する人や満州(現・中国東北部)で暮らす人が増え、家庭料理としても食べられるようになります。
 本格的な普及は終戦後、中国からの復員兵や引揚者が大陸の味を懐かしみ、餃子を出す飲食店や持ち帰り用の餃子を売る屋台が全国に登場しました。中国では蒸し餃子や水餃子が主流で、餃子は主食として食べられていますが、日本の主食は白いごはん。自然と焼き餃子が好まれ、厚い皮から薄い皮になり、にんにくを具材に加えるなど、おかずとしてアレンジされていきました。

本場ではいつから食べられていた?

 安くてお腹を満たせるスタミナ食として老若男女に愛され、家族みんなで和気あいあいとつくって味わえる家庭料理としても市民権を得た日本の餃子。一方、本場・中国では何百種類もの餃子が存在するといわれています。
 そもそも小麦の栽培は紀元前2000〜3000年頃から行われていましたが、小麦粉にして人が食べるようになったのは紀元前5〜3世紀頃。はるか昔のことで、餃子がいつ頃から食べられていたのかは定かではないものの、春秋戦国時代には現在の山東省で食べられていたとされ、時代を下った唐代の敦煌の遺跡からは今日の餃子によく似た化石が発見されています。
 呼び名の由来にも諸説あり、宋代に「角子・角児(ジャオズ・ジャオル)」と呼ばれていたものが、明代になると「扁食(ピェンスー)」「湯角(タンジャオ)」となり、清の時代に「餃子(チャオズ)」が定着したとも。
 ちなみに、餃子がまだ珍しかった日本の明治時代の料理本には、餃子に「かうづら」とルビが振られていたこともありました。大正時代には名前がわかりづらいからと「ビターマン」と名付ける専門店が登場、「チョーツ」「チャオツ」など中国語に近い発音で呼ばれていた時期もあったそうです。

餃子はお正月の縁起物!

 中国北部の人にとって餃子は春節(旧正月)に食べる縁起物。大晦日になると餃子をつくり、午前0時になると新しい年の最初の食事としていただくのが古くからの風習です。
 かつて小麦が貴重だった時代に豊作への願いを込めて、餃子の「交」と「子」という字にかけて、旧年と新年が交わる子の刻(午前0時)に食べられるようになり、元宝という古代中国のお金のかたちに餃子が似ていることから「お金に恵まれるように」との意味もあるそう。地域によっては季節の行事のほか、婚礼の場や客人を送り出す送別の料理として供されることもあるといいます。

餃子の街、二強時代に終止符?

 毎年2月に発表される総務省の家計調査で明らかになるのが、日本一の餃子の街。調査対象の餃子は持ち帰り専門店や小売店の惣菜が対象で、外食や冷凍餃子は含まれていないものの、毎年注目され、まちおこしにもひと役買っています。
 長年、首位争いを演じていたのが栃木県宇都宮市と静岡県浜松市です。宇都宮市は戦後、満州からの引揚兵が多く、全国屈指のニラの生産地であることなどから、餃子が古くから親しまれてきた土地。1990年頃からまちおこしの一環でアピールが始まり、宇都宮餃子を出す店はいまや市内で200軒を超えるそうです。
 一方、浜松市はキャベツやタマネギの産地で養豚業も盛んだったことや、ものづくりが盛んな街で労働者のスタミナ食として餃子が愛されていたこともあり、浜松餃子を謳うお店は300軒以上とも。
 そんな宇都宮市と浜松市の二強時代に終止符を打ったのが宮崎県宮崎市です。県として豚の飼育頭数が全国トップクラス、キャベツやニラの産地でもあり、老舗の専門店や持ち帰り店が多い宮崎市は、2021年に初めて餃子購入金額でナンバーワンになると翌2022年も日本一に。餃子の街は三強時代に突入したといえそうです。

全国ご当地餃子マップ

 宇都宮や浜松、宮崎だけでなく、日本中さまざまなかたちで餃子は愛されています。ご当地餃子はこれでも氷山の一角かも?

買い方も好みもコロナで変化?

 コロナ禍で外食も満足にできなかった昨今、街中の飲食店のデリバリーやテイクアウトが好調だった一方、勢力を伸ばしたのが冷凍餃子の自動販売機です。
 もともと1970年代から流通していた冷凍餃子。自販機ならば24時間いつでも非対面で購入でき、巣ごもり需要にもマッチ。広いスペースが必要なく、人材不足にも悩む心配がない冷凍餃子の無人販売所とともに全国に広がっています。
 コロナ禍ではテレワークやマスク生活の定着によって、にんにくを「増量」した餃子も人気に。マスクをしていれば相手に気を使う必要もないと、性別を問わず支持を集めているようです。

輸送技術や冷凍技術の進化で、名店の味を気軽に楽しめるお取り寄せ餃子も近年は充実しています。お店の味、家庭の味、どちらも楽しめるのが餃子の魅力です!

参考文献(順不同)
岩間一弘 『中国料理と近現代日本:食と嗜好の文化交流史』(慶應義塾大学出版会)/魚柄仁之助『国民食の履歴書 カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが』(青弓社)/井口淳子『送別の餃子 中国・都市と農村肖像画』(灯光舎)/日本経済新聞(ホームページ)/東洋経済オンライン(同) 等

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