
イナゴの佃煮のように地域によっては昔から盛んだった昆虫食が、将来の食糧危機に備えた食品の1つとして注目されています。昆虫食を売りにする飲食店もちらほら現れている昨今、昆虫を用いたスナックやラーメンを食べた経験がある人もいるのではないでしょうか? 今回は、NPO法人昆虫食普及ネットワークの内山昭一さんに、昆虫食が注目される理由と食べ方について話を聞きました。
アジアやアフリカ、南米で古くからみられる食文化だった昆虫食が改めて注目されたきっかけは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が出した報告書です。これによると、昆虫は生産に際して家畜よりも温室効果ガスを排出せず、水や土地を必要としないことから環境的なメリットがあると報告されています。そのため、将来の食糧難を救う食品として昆虫食がピックアップされました。
さらに、2018年には欧州連合(EU)が昆虫を新規食品として規定。欧米で、昆虫食のスタートアップ企業が誕生しました。食への意識が強いオランダや北欧では関心が高く、フィンランドではスーパーでコオロギパンが売られているほど。もともと昆虫食に偏見のないヨーロッパでは、サステナブルな食品として支持されています。
昆虫は、高タンパクで良質な脂肪である不飽和脂肪酸を含んでいます。それだけでなく、ミネラルや食物繊維も豊富です。食べられる部分も多く、牛肉の40%に対して、コオロギは80%が可食部です。このことから、欧米ではスーパーフード的な側面でも注目され、バータイプの食品として販売されています。
また、美食家の間では、世界のベストレストランで1位になったことがあるデンマーク・コペンハーゲンの「Noma」がメニューにアリを取り入れたことが話題になりました。栄養豊富な食品であることも注目される理由の1つです。
もともと日本では古くから昆虫が食べられてきました。あるデータでは1919(大正8)年には55種類もの昆虫が食べられていましたが、1985(昭和60)年には6種類に減り、現在はイナゴやハチの子、カイコサナギ、ザザムシが佃煮で食べられる程度になっています。
ここ数年、無印良品がコオロギのパウダー入りせんべいの販売を行い、メディアでも取り上げられていますが、まだまだ普及しているといえるほどではありません。
その理由の1つが値段が高価なこと。しかし、昆虫は成長が早く、食用として養殖する負担もさほどかかりません。新たなビジネスチャンスとして昆虫の養殖に乗りだす企業の出現が待たれています。
食用に適した昆虫は世界に2000種近くいるといわれ、調理次第でおいしくいただけるとか。ここで、代表的な食用昆虫をご紹介します。
エビやカニのアレルギーである甲殻類アレルギーは、トロポミオシンという成分に反応します。昆虫にもこの成分が含まれています。甲殻類アレルギーの人は昆虫食は控えましょう。
身近にいる野生の昆虫を捕まえて食べてみようという人はまだまだ少ないかもしれませんが、できないことではありません。ただし、毒キノコほどではないものの、昆虫の中には有毒なものもいます。もし自分で捕った昆虫を食べてみたいと思ったとしても、昆虫図鑑で毒性の有無や毒草を食べているかどうかを確認し、安全性が確認できてから実行に移しましょう。代表的な有毒昆虫はツチハンミョウ科の昆虫です。身近なところでは家庭に出るゴキブリも衛生上NGです。
昆虫の生食は厳禁。昆虫の体内には、寄生虫や細菌などが潜むリスクがあるからです。必ず加熱調理をしてから食べることを徹底してください。調理前の手洗いも大事です。
新型コロナウイルスのワクチンやコロナ抗体検査の開発でカイコが注目されています。九州大学農学研究院の日下部宜宏教授は九州大学で飼育している約450種類のカイコの中に、体内でワクチンの原料となるタンパク質を大量につくれる種があることを発見。高性能のワクチンをつくる研究が進められています。将来的にカイコのまま「食べるワクチン」の開発も視野に入れられています。また、九州大学発のベンチャー企業「KAICO」は医療機器メーカー「プロテックス」と共同でカイコを使った新型コロナウイルス抗体検査キットを開発。検査サービスの受け付けがスタートしています。昆虫食は、医療の分野でも世界を救うかもしれません。
昆虫料理研究家、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長/昆虫の味や食感、栄養などあらゆる角度から食材としての可能性を追求。一般向けに昆虫食を食べる会やセミ採りの会のイベントも主催。楽しさの探求のみならず、科学的な啓蒙活動を精力的に続けている。『昆虫は美味い!』など著書多数。
https://www.entomophagy.or.jp/