
韓国やアメリカで一大エンタメとして盛り上がりを見せるeスポーツ。日本でも2018年にユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に入賞し、昨年には国体に登場するなど注目度が高まっています。新たなスポーツとして脚光を浴びる中、市場にはどんな影響を与えるのでしょうか。ライターの鴫原盛之さんに聞きました。
electronic sportsの略で、ゲーム機やパソコンなどの電子機器を使った対戦型ゲームをスポーツ競技としてとらえた名称。子どもが家に集まってサッカーゲームや格闘ゲームを楽しんでいた文化を源流に、現在では大きな会場でプレーヤーが対戦し、ファンがモニター越しに、あるいはeスポーツ専門の施設でライブ観戦するエンタメへと発展。1つの大会で数億円もの賞金を稼ぐプロも出現しています。
eスポーツはどこからどこまでを指すか曖昧なところがあります。日本eスポーツ連合(JeSU)では、次のような公認条件を設けています。
eスポーツでプレーされる対戦型ゲームには次のようなジャンルがあります。
チームで協力しあって、相手の陣地を攻略するゲーム。eスポーツで人気のジャンル。
例:リーグ・オブ・レジェンド、Dota2
シューティングゲームとアクションゲームが合わさったゲームジャンル。主人公の目線で戦っていくのが特徴です。また、「スプラトゥーン」のようにプレーヤーとキャラクターの姿を第三者的に見るゲームもあり、こちらはサードパーソン・シューティング(TPS)と呼ばれています。
例:Call of Duty、Halo
サッカー、野球、バスケットボールなどのスポーツゲーム。球技が多く、スポーツのルールを知っていればできる。
例:ウイニングイレブン、実況パワフルプロ野球
対戦形式のカードゲーム。日本でカードゲームといえばリアルな“トレカ”が人気ですが、海外でもeスポーツとして人気があります。
例:ハースストーン、シャドウバース
プレーヤーが1対1の格闘技で戦う対戦型ゲーム。
例:ストリートファイターシリーズ
日本映画『バトル・ロワイアル』のように最後の1人になるまで戦い抜くゲーム。最初は多数の個人プレーヤーや複数のチームで戦うが最後の1人または1チームになるまで、ひたすら相手を倒していきます。
例:PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(PUBG)、
フォートナイト
スマホゲームアプリのゲームタイトルを指します。今後、タイトルが増えることが見込まれます。
例:モンスターストライク、パズル&ドラゴンズ
1997年に開催された「Cyberathlete Professional League(CFL)」がeスポーツの源流と言われています。その後、韓国やアメリカ、近年では中国がeスポーツを牽引。日本では2010年代から、eスポーツの発展に向けた動きが徐々に出始め、2018年2月には日本eスポーツ連合が誕生。また、2019年10月には「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラムとして、「全国都道府県対抗eスポーツ」選手権2019 IBARAKI」が開催されています。
オランダのリサーチ会社Newzooによると、eスポーツの世界的な市場規模は2018年で996億円に達し、2021年には1815億円に上るとしています。海外ではeスポーツ専用のスタジアムがあり、韓国では、2000年に開局したeスポーツプロリーグを放映するケーブルテレビ局が急成長し、日本のプロ野球のように盛り上がっています。また、アメリカではeスポーツの運営会社「Esports Arena」がウォルマートと提携し、eスポーツ施設を展開すると発表するなど市場は拡大傾向です。
ようやく日本でも少し前からeスポーツの発展に向け、動きが出てきています。まず、2018年2月に日本eスポーツ連合が誕生。日本のeスポーツを国際的なレベルにする目的で設立されました。そして若者の間では、eスポーツがスポーツや職業として認識されています。月刊マンガ誌「コロコロコミック」の調査では、子どもが憧れる職業の2位にプロゲーマーがランクイン。高校でeスポーツが部活動として導入され、全国高校eスポーツ選手権が開催されています。それを受けるように、プロゲーマーの育成を目指す専門学校も開校。eスポーツの土台ができあがりつつあるのです。
eスポーツの大会は世界各国で開催されています。規模が大きくなると賞金総額は日本円で何千万円単位。代表的なeスポーツ大会には、5大大会というのがあり、こうした大会は、タイトル別もしくはジャンル別に絞って行われます。
なかでも最大の「インテル・エクストリーム・マスターズ」は、インテルがスポンサーとなり、eスポーツオンラインリーグ「エレクトロニック・スポーツ・リーグ(ELS)」によって運営、動画配信サービス「Twitch」で配信されています。
こうした大会とは別に、メーカー主催のものやゲームのタイトルごとに開催されるものもあります。有名なところでは、「Dota2」の賞金総額が日本円で28億円にもなることが話題になりました。
大会を参加するプレーヤから見ると、参加するには予選を勝ち上がって本戦に出場する資格を得るのが一般的。大きなタイトルを狙って賞金を獲得するものや、各地の大会を転戦した後に勝者を決めるポイント制のものも。大会はチームで参戦するものと、1人で参戦するものがあります。プレーヤーの収入源は、賞金がメインですが、チームに所属して固定給を得たり、スポンサーから援助を受けることもあります。
eスポーツを観戦するには、大会が開催される会場へ足を運ぶ方法もありますが、やはり一般的なのはインターネットによる観戦です。世界的なeスポーツ動画配信サービスとして知られるのが、「Twitch」。日本、そして世界のゲーマーが戦う様子を観戦することが可能です。そのほか、「YouTube」「ニコニコ動画」でも配信されています。観るためには好きなタイトルを検索すればOK。ライブ配信を楽しむこともできますし、アーカイブで観ることも可能。ライブ配信中には、個人的にスポンサーをしたり、仮想通貨で投げ銭することもでき、支援することができるのも特徴です。
また、eスポーツを放映するテレビ番組もあり、現在では東京MXテレビ「eスポーツMAX」、フジテレビCSフジテレビONEでは「いいすぽ!」などが放送されています。今後、eスポーツが活性化されれば、こうした番組は増えていくでしょう。
日本でeスポーツの土台が整い、本格的な展開が見込まれるなか、各分野の企業がeスポーツに続々と参入を表明しています。最近の話題では、トヨタが自動車レースゲーム「グランツーリスモSPORT」用のシミュレータ施設を4月にオープン。レースの様子がYouTubeで配信されています。
メディア分野では、日本テレビがeスポーツ事業子会社を設立し、プロのeスポーツチーム「AXIZ」を結成。専門番組も開始されています。芸能事務所もeスポーツビジネスに乗り出していて、吉本興業や浅井企画が参入。吉本興業は「よしもとゲーミング」というeスポーツチームを立ち上げたり、渋谷に「ヨシモト∞ドーム」をオープン。浅井企画はタレントで「浅井企画ゲーム部」を発足し、YouTubeチャンネルを開設。次世代のeスポーツプレーヤーを育成するプロジェクトもあります。
実際のスポーツとeスポーツが融合する取り組みもスタート。プロ野球12球団と日本野球機構がプロ野球eスポーツリーグを開催し、ペナントレースを開始したり、サッカーのJリーグが「明治安田生命 eJリーグ」を開催しています。
こうしたeスポーツ大会が開催されると、スポンサーとして名乗りをあげる企業も。auやサントリー、ローソンがそれぞれのサービスや商品をeスポーツと絡めてアピールしています。こうしてeスポーツに魅力を感じてさまざまな分野の企業が参入しているのが現在の動き。大きな市場へ変化する可能性を感じさせます。
今夏、開催予定で最もeスポーツファンの注目を集めていたのは、「インテルワールドオープン」でした。ワールドワイドオリンピックパートナーであるインテル主催で、7月に東京開催、さらには国別対抗戦だったことから、最高の盛り上がりとオリンピック正式種目化へ向けた新たな動きがあるのではと期待がかかっていたからです。残念ながら、2021年に延期されることが決定したので、注目は来年に持ち越されました。
秋には「2020かごしま国体」でeスポーツが大会文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020KAGOSHIMA」が開催予定です。いずれも今後のeスポーツの動向をチェックするには欠かせない大会。ぜひ、注目してみてはいかがでしょうか。
ライター、日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表/1993年にゲーム誌に攻略ライターとしてデビュー後、ゲームセンターやメーカーの営業職を経て、2004年にゲームメディアを中心に活動するフリーライターに。「ビジネスを変える『ゲームニクス』」などの著書(共著)があるほか、ゲーム産業史のオーラルヒストリー収集事業にも協力している。