ここからは、日本人とビールにまつわるさまざまなエピソードもご紹介します。ビールに合うおつまみといえば枝豆を挙げる方は多いと思いますが、そんな枝豆とビールの関係が始まったのは、一体いつなんでしょう?

枝豆は古くから日本に伝わり、江戸時代にはゆでた枝豆を売り歩く枝豆売りもいたというほど、日本人におなじみの食べ物です。ただし、日本で本格的にビールが飲まれるようになった明治時代はビール=高級酒ですから、庶民的で安価な食べ物である枝豆がおつまみとして食べられることは一般的ではなかったようです。
昭和初期の新聞記事には、ビールの肴にひと手間加えた枝豆料理を振る舞うためのレシピ記事が登場しますが、枝豆をつまみにビールで一杯という文化が根付いたのは、戦後、ビヤホールや家庭でビールが飲まれ始めてからという説が有力。婦人雑誌の料理特集で「ビールのおつまみ」として枝豆料理が紹介されたり、昭和30年代後半のマンガ「サザエさん」に枝豆をおつまみにビールを飲む姿が描かれていたりと、現代と変わらない両者の関係が見られます。いまや枝豆は、タンパク質やカルシウムを多く含むヘルシーフードとして、世界的に注目されている食べ物。世界のビール好きが枝豆をおつまみにする日も近いかも?

日本のスポーツ界でおなじみのビールかけ。その起源は、プロ野球の南海ホークスが日本シリーズで読売ジャイアンツを破り、日本一の座を獲得した1959年といわれています。
南海ホークスの選手たちは優勝を決めた後、ホテルの食堂に集まってビールで「乾杯」していましたが、アメリカのマイナーリーグでのプレー経験があるハワイ生まれの日系二世選手・カールトン半田選手が、シャンパンをかけあって勝利を祝う「シャンパンファイト」を真似してビールをかけ始め、大盛り上がりとなったそう。これ以降、プロ野球界でビールかけが浸透していったのです。ちなみに2016年には、ボクシングWBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチを制し、世界3階級制覇を達成した長谷川穂積選手がボクシング界で異例となるビールかけを実行! 缶ビール500本を空けてお祝いしたといいます。

近年、世界的に注目を集めているのが、小規模な醸造所でつくられるクラフトビールです。日本では1994年に酒税法の改正により、ビールの小規模醸造が許可され、地域性にこだわったご当地ビール=地ビールが一大ブームとなり、ピーク時には200を超える小規模醸造所が全国で設立されたものの、話題づくりの一環として未熟な技術で生産されるビールもあったため、次第に衰退してしまいます。
しかし近年は、アメリカのクラフトビール人気が世界に広がり、日本でも一部の醸造所が地道に努力を続けて海外でも評価される質の高いビールをつくっていたことなどから、万人受けする味にとらわれず、それぞれの個性を売りにしたクラフトビールが日本でも活況となっているんです。いまや全国に180を超える小規模醸造所が設けられ、 同じ場所でビールを製造・提供するブルーパブと呼ばれるお店も増えています。
ビールはキンキンに冷やして飲むもの、というイメージがありますが、実はビールには適温があり、「冷やせばいい」というワケではありません。日本で一般的なラガービールは、シャープですっきりした味わいを楽しむため、低めの4℃から8℃が飲み頃の温度。一方、エールやヴァイツェンなど香りを楽しむためのビールは、温度が高いほうがその香りを感じやすいため、常温程度で飲むのが最適と考えられているんです。
飲み方にしても、ラガービールはゴクゴク飲んだほうが爽やかな喉ごしを楽しめますが、エールビールはチビチビと口に含みながらコクを味わうのが正解。クラフトビールの人気でさまざまなビールを楽しめるようになったいま、ビールそれぞれの飲み方も覚えておくとよいかもしれませんね。

最後は、クラフトビール同様、日本で人気を集めるオクトーバーフェストのお話を。オクトーバーフェストはもともと南ドイツ各地で行われていた秋の収穫祭、つまり新しいビールの醸造シーズンの幕開けを祝うお祭りでした。世界的なビールの祭典になったのは、1810年10月12日から6日間にわたり、皇太子ルートヴィヒとザクセン皇女の結婚を記念した大規模な競馬会でビールを振る舞ったことがきっかけ。これがお祭りとして継続されるようになり、200年以上経ったいまでは、巨大な会場にビールテントをはじめ、観覧車、ジェットコースターなどのアトラクションも加わり、昨年は来場者590万人、770万リットルものビールが消費されたのだとか! また、本国ドイツ以外でも世界各地で同様のイベントが行われるようになり、日本では2000年代初頭から大規模なイベントが開かれ、いまでは全国各地で季節を問わず開催されています。ミスオクトーバーフェストや“街コン”とのコラボイベントなど、日本独自の催しも展開して盛り上がっているんです。
日本にやってきて約300年、独自に進化した日本のビールの世界は海外からの新しい風を受け、楽しみ方もさらに広がっています。おいしいビールを楽しく飲みながら、今年の夏を乗り切る英気を養ってはいかが?
参考文献(順不同)
端田晶『ぷはっとうまい 日本のビール面白ヒストリー』(小学館)/端田晶『ぷはっとうまい〜日本のビール面白ヒストリー 大日本麦酒の誕生』(雷鳥社)/キリンビール編『ビールと日本人 明治・大正・昭和ビール普及史』(河出書房新社)/日本ビアジャーナリスト協会監修『日本のクラフトビール図鑑』(マイナビ)/一般社団法人日本ビール文化研究会・日本ビアジャーナリスト協会監修『ビールの図鑑』(マイナビ)/藤原ヒロユキ『藤原ヒロユキのイラストで巡る世界のビール博物館』(ワイン王国)/琉球新報/ビール会社各社ホームページ 等