
パーパスという言葉・概念が近年、企業活動において重視されているのをご存知でしょうか?
パーパスとは、企業の「存在意義」を指す言葉です。パーパスに基づく経営は近年のグローバルスタンダードとなりつつありますが、「経営理念と何が違うの?」「なぜ最近注目されているの?」、このような疑問を持っている方も多いでしょう。
この記事ではビジネスシーンにおけるパーパスの位置付けやパーパスが重視される背景について、国内企業の具体例を交えながらわかりやすく解説します。
ビジネスシーンにおける「パーパス(purpose)」とは、企業や組織の「存在意義」を指します。「自社は何を成し遂げるために存在するのか」「どんな価値を社会に提供するのか」などの問いを突き詰めていくと、その企業や組織の「パーパス」が見えてくるはずです。
パーパスによく似た概念として、「経営理念」「ミッション」「ビジョン」などを思い浮かべる方も多いでしょう。以下、パーパスと関連するビジネス用語について、より詳しく見ていきます。
パーパスと経営理念の主な違いは、社会的・対外的な視点が重視されるか否かという点にあります。
経営理念は企業代表者が経営をするにあたって重視する価値観全般を指すのに対し、パーパスは主に、社会における自社の存在意義を問うものです。
環境問題や地域インフラの整備に力を入れている企業など、企業代表者が重視する価値観によっては、経営理念の内容がパーパスと共通する場合もあるでしょう。
コーポレートスローガンとは上述の「経営理念」をもとに、企業の特徴や方向性を端的な言葉で表現した「合言葉」や「キャッチフレーズ」のようなものです。
例えばトヨタ自動車の“Drive Your Dreams”、タワーレコードの“NO MUSIC, NO LIFE.”など、コーポレートスローガンが広報資料やCMなどに活用されることもあります。
一方、パーパスは、経営理念やコーポレートスローガンの内容を、社会との関係において実現するために設定されるものです。
ただし、企業の方向性によっては、パーパスの内容を反映したコーポレートスローガンを設定する場合もあります。
パーパスは企業活動の主軸となる「MVVC(Mission, Vision, Value, Credo)」を設定するための前提事項となります。パーパスとMVVCの関係について、以下の表にまとめました。
ミッション (Mission) |
パーパスは「自社はなぜ存在するのか?(Why)」を問うのに対し、ミッションは「パーパスを実現するために何をするのか?(What)」という行動や目標を示す。 |
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ビジョン (Vision) |
パーパスを達成するために設定されたミッションを実現するために、企業があるべき状態や未来像を示す。 |
バリュー (Value) |
パーパス、ミッション、ビジョンを実現するために重視する方針や行動基準などを指す。 |
クレド (Credo) |
パーパス、ミッション、ビジョン、バリューに基づき、従業員が守るべき信条を指す。 |
野村総合研究所の調査報告によると、国内企業においてパーパスを見直す流れが2019年から2022年に加速していることが明らかになりました。
調査対象となった東証プライム上場企業の4割以上(2023年時点)が、パーパスの考え方を導入しており、売上高比率や営業利益額比率、営業利益率などの観点から、導入効果が認められたと報告されています。
ただし、パーパスと企業実態が乖離(かいり)している「パーパスウォッシュ」の状態では、消費者からの信頼を得にくく、プラスの経済効果に結びつきにくいのも事実です。
掲げたパーパスと企業実態を一致させていく企業努力がより一層求められるでしょう。
パーパスの具体例を見てみましょう。さまざまな分野・業界におけるパーパスの事例をご紹介します。
各社の得意分野やサービスの特徴、企業文化などがパーパスに反映されていることがわかります。
企業や組織のパーパスを問う流れが国内外のビジネスシーンで重視されるようになった背景について、4つの視点から解説します。
2015年の国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されて以降、ビジネスシーンにおいてパーパスが重視されるようになりました。世界規模でSDGsの流れが加速する中、企業の社会的意義がよりシビアに問われるようになったためです。
自社の利益を追求するだけでなく、社会的責任やSDGsへの貢献が重視されるようになったことで、自社の社会的価値(存在意義)を見直す企業が増加していると考えられます。
消費者が重視する価値観の変化に伴い、商品やサービスを提供する企業の在り方も変革を迫られています。例えば近年、体験や経験を重視する「コト消費」や、地球環境への影響や倫理観も考慮に入れる「イミ消費」が脚光を浴びはじめました。
多様化する消費者のニーズに対応するために、「何のために自社サービスが存在するのか(パーパス)」を積極的にアピールする必要が生じているといえます。
労働力の主要な担い手となる若手層も、就職先企業のパーパスや企業文化、社会貢献度を重視するようになりました。知名度や待遇の良さだけでは、優良な求職者を確保するのが難しい時代に突入しつつあるといえるでしょう。
少子化による人手不足が叫ばれる中、より優良な人材を獲得するために、自社のパーパスを発信する企業が増えています。
投資家や株主は、その企業がステークホルダーや社会に対していかなる価値を生み出せるかという視点から実施される「ESG投資」に、価値を見出すようになりました。
社会的責任に配慮している企業により多くの資金が投下されるようになったことで、自社のパーパスを見直す企業が増えているのです。
とくに、2018年に大手資産運用会社のブラックロックが世界の経営者に向けて公開した「A Sense of Purpose」という文書がひとつのきっかけとなり、パーパスの考え方が経営層により注目されるようになりました。
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字から来ています。ESGに関する取り組みは企業の成長性を見極める3大要素として、近年投資家から注目されています。
パーパスを明確化するメリットや意義は、大きく3点あります。
ひとつずつ解説します。
パーパスを設定することで、自社がどのように社会に貢献しているのかを実感しやすくなります。これにより、社員のモチベーションが高まるでしょう。
また、社員が一丸となってパーパスに向かって行動することで、業務の効率化や生産性の向上も期待できます。
パーパスを社会に向けて発信することで、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みに着目する投資家などから注目されやすくなります。その結果、資金調達がスムーズに進むでしょう。
また、ステークホルダーから注目されやすくなることで、志を同じくする他企業との業務提携やアライアンス等のビジネスチャンスにつながる可能性もあります。
パーパスにより自社に必要なものが明確化されることで、新商品の開発、既存サービスの改良などにつながる可能性もあります。
例えば、売上が伸びない時期にパーパスを振り返ることで初心に戻り、解決につながる可能性もあるでしょう。
パーパスを掲げるだけでなく、パーパスを経営に活かす取り組みも活発化しています。以下、パーパスが企業経営にどのように役立つのか、2つの代表例を挙げて解説します。
パーパス経営とは、パーパスを基軸とした経営の在り方を指します。利益を追求するだけではなく、社会への貢献を目標とする点が特徴です。
例えば大量生産・大量消費を前提とするビジネスモデルから、受注生産・予約販売制に切り替えるなど、パーパス経営では利益の追求と同時に社会的視点が重視されます。
パーパスブランディングとは「社会的意義」を積極的にアピールすることで、長期的なブランドへの愛着につなげるブランディング戦略を指します。
例えば、環境への配慮やフェアトレードなど、社会貢献的な観点から自社ブランドの魅力を訴求することで、消費者の共感や信頼を集める取り組みが考えられます。
なお、パーパスブランディングでは必ずしも利益追求を最優先するわけではないため、短期的な利益に直結しない場合もあります。
パーパスとは企業の「存在意義」を指す言葉・概念です。SDGsやESG投資など、社会で重視される価値観の変化により、パーパスを見直す流れが加速しています。
持続可能な企業活動に向けた取り組みとして、パーパスを軸に活動する企業が今後も増えていくことが予測されます。
参考文献(順不同)
NTTファイナンス株式会社 パーパス、ビジョン、バリューズの制定について
https://www.ntt-finance.co.jp/news/231106.html