ビジネスで、人間関係で、子育てで、最近イライラして怒りをぶつけてしまい、自己嫌悪に陥った経験はありませんか? いま、怒りと上手に付き合う「アンガーマネジメント」が日本で注目されています。そこで今回は、日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介さんに、はじめてのアンガーマネジメント入門を教わりました。
1970年代にアメリカで誕生した、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングです。アンガーマネジメントの目的は、怒る必要のあることは上手に怒り、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになること。怒りは人間にとって必要な感情で、誰にでもどんなシーンにもわきあがるもの。それを上手にコントロールしようというものなのです。もともとアメリカで軽犯罪者の矯正プログラムとして確立されましたが、現在は企業研修や青少年教育、アスリートのメンタルトレーニングとしても活かされています。
私たちが怒る理由を単純に説明すると、自分が信じた「……すべき」が裏切られた瞬間に起きます。怒りとはすなわち、自分と異なる価値観を見せられたときに起こる感情です。現代は多様性を受け入れることが求められています。入社したら一生その会社で骨を埋める覚悟を持つ、子育ては専業主婦である女性がするもの、といった価値を共有する時代ではありません。自分と違う価値観を持つ人とふれあう機会はますます増えてくるなかで、衝突を繰り返していたらどうなってしまうでしょうか。
また、少子高齢化の日本では一人ひとりに生産性の高い仕事が求められ、仕事や子育て、介護にもがんばらなくてはいけなくなっています。忙しさはイライラや怒りを生むきっかけになります。アンガーマネジメントは、いまを上手に生きる人に欠かせない心理トレーニングといえるかもしれません。
アンガーマネジメントは誰にでもできるトレーニングです。ただし、トレーニングなので、一歩一歩、自分と向き合いながら進めていくことが大切です。ここでは、そのための4つのSTEPをご紹介します。最初はわからなかったり、うまくいかなかったりするかもしれませんが、根気よく3週間は続けてみてください。きっと、その頃には、怒りと上手に付き合うことができるようになっているはずです。
アンガーマネジメントの第一歩は、「怒り」を知ること。怒りとは、人間に備わっているごく自然な感情の1つです。怒りの感情がない人はおらず、どんなにおだやかな人にも怒りの感情はあります。怒りは、マイナスの感情だと思われがちですが、別名「防衛感情」と呼ばれているもの。自分とは違う価値観を目のあたりにしたときに自分の身を守るために起こる感情といえます。つまり、自分を大切にする行為でもあります。
また、同じことをされても、腹が立つ日もあれば、そうでない日もある、という経験はありませんか? これは、怒りが「第二次感情」と呼ばれるもので、背景に第一次感情があって起こるものだからです。私たちの心のなかにコップがあると仮定しましょう。1日を過ごしているうちに、忙しい、苦しい、つらい、不安などマイナスの感情が溜まっていきます。そのうち、何かのきっかけであふれたものが、「怒り」なのです。すなわち、ネガティブな第一次感情に触発されて起きるのが、怒り。リラックスしている状態であれば、怒りは起きにくいことを覚えておいてください。
怒りの感情がわいてくるのは仕方ありませんが、そのときにやってはいけないことがあります。その代表例が、反射的に言い返したり、仕返ししたりすること。つまり、怒りの感情をいったん落ち着かせる必要があります。このときに有効なのが、「6秒ルール」です。腹が立ってしょうがないときに、いったん6秒ほど心を鎮めてみてください。1秒1秒カウントしてみたり、深呼吸してみたり、自分の落ち着くやり方で、ときが過ぎるのを待ってみましょう。
さらに、そのあとこのときの怒りのレベルが10点中、どのレベルかを探ってみましょう。はじめのうちはわかりにくいですが、何度かやっているうちに、「この前の怒りと比べて強いから7かな?」と客観的にそのレベルが把握できるようになります。怒りの感情がコントロールしにくいのは、目にみえないから。こうして数値化することで、自分の怒りの状態がわかってくるようになるのです。
次は、怒りの思考についてコントロールしていきます。私たちに怒りの感情が起きるのは、自分が信じている「…べき」が目の前で裏切られたときでした。私たちの心のなかには、3つのゾーンがあるのです。それが下の図です。一番中心にあるのが「自分が信じているものと一緒」、次に「信じているものと一緒じゃないけれど、許せる」、さらに外側に「自分と違っていて、許せない」です。
人それぞれこの3重丸の幅が異なり、怒りっぽい人は①と③しかない人。逆にいうと、②のゾーンが広げられれば怒る機会は減りますので、ここを広げる努力が必要です。とはいえ、広げすぎてもダメ。怒りは必要な感情なので、なんでもかんでも許すのではなく、大切なのは怒りのムラをなるべくなくすこと。同じことが起きた日に、ある日は怒るけどある日は怒らないのではなく、同じ条件で怒れるようにするのもポイント。これらを鍛えることで、自分がどんな怒りの原因を持っているかがわかるようになります。
いよいよ最後のステップです。ここでは、怒りの感情が起きた後、どう行動するかを考えます。私たちに怒りの感情が起きたとき、大きく4つの状況にあります。それが「変えられて重要」「変えられるけど重要じゃない」「変えられなくて重要」「変えられないし、重要じゃない」という状況です。それぞれについてどう行動すればよいかを解説します。
●変えられて重要
いますぐに取りかかりましょう。このときには、いつまでに、どの程度変わったら気が済むかを決めるのがポイントです。例えば、「部下が頻繁に遅刻してくる」という状況があったときに、「いつまでにどのくらい遅刻が減ったらよいか」を決めて相手に伝えます。
●変えられるけど重要じゃない
余力があるときに取りかかりましょう。例えば、部下からのメールを読んで、些細な点が気になったというような場合。怒ったほうがいいけれども、ほかにやるべきことがある状況のときは、余力があるときに伝えましょう。
●変えられなくて重要
変えられない状況で重要な場面というのもあります。「打ち合わせ時間がせまっているのに電車が止まってしまった」というような状況です。こうした場合は、変えられない状況を受け入れて、現実的な選択肢を探ります。この状況の場合は、電車が止まってしまったことは変えられないので、遅れることを連絡する、タクシーで移動する、というようなことが考えられます。
●変えられないし、重要じゃない
これは思い切って放っておきましょう。ほかに重要なことに取りかかったほうがいいです。放っておく、というのもある意味、むずかしいことです。ここでは、放っておく努力をしてみることが大切です。
怒りと上手に付き合えれば、人間関係がよくなり、日々のストレスも減らせるはず。ぜひアンガーマネジメントを継続的に実践してみてください。
私たちが子育てをするときにもアンガーマネジメントは有効ですが、一方で子ども自身にもアンガーマネジメントが必要です。怒りは、子どもにも大人にもある感情で、怒りが爆発してしまった場合、ある意味、人生を壊す恐れもあるからです。大人のアンガーマネジメントは数値や言語を使って、怒りを「見える化」していく作業でした。子どもは大人と違って、まだ数値や言語の表現力が未発達なので、子どもの場合は、絵や工作物で表現させてみるとよいでしょう。例えば、「怒りを絵で描いてみるとどんなもの?」「いまの怒りを粘土で表すとどんなかたち?」と子どもに問いかけて表現してもらうのです。野球も、まずはボールを握ったり、バットを振り回したりすることから始まります。こうして、小さい頃から怒りのイメージをもつことで、怒りと上手に付き合っていけるようになります。
日本アンガーマネジメント協会代表理事、怒りの感情コントロール専門家/ニューヨークで働いているときに、アンガーマネジメントに出会い、その手法を実践するうちに、自分自身が生まれ変わったことを実感。世界で15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアメリカ人以外では唯一登録されている。現在は、日本のアンガーマネジメントの第一人者として活躍している。『アンガーマネジメント入門』など著書も多く、中国、台湾でも翻訳され、累計20万部を超える。
https://www.angermanagement.co.jp
著書:安藤俊介、マンガ橋本くらら
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,404円(税込)
「○×まんが」方式で、話題の心理トレーニング・アンガーマネジメントの要点がスッキリわかる1冊。「怒り」をマネジメントすれば「思わずキレちゃった」という悩みも、「言いたいことを言えなかった」という悩みもスッキリ解消します。マンガと文章でアンガーマネジメントがわかりやすく解説されています。
※内容は予告なく変更される場合があります。