フィットネススタジオといえば、しっかりと照明が点いた鏡張りのフロアで、インストラクターを前に運動を行う場所というイメージが強い。しかし、その明るい雰囲気に気後れしてしまう人は少なくないようだ。
スポーツ庁が昨年11月に行った世論調査(※)では、運動・スポーツが嫌いな理由として「人に見られたくないから」と答えた人が男性では13.2%、女性では15.2%に上り、それぞれ「苦手」「疲れる」「時間を取られる」「お金がかかる」に続いて多くなっている。10代を除けば、男性は30代(19.8%)、女性は20代(25.4%)の割合が高く、スポーツに敏感そうな世代であるにも関わらず、周りの目が気になってハードルが高いと感じてしまっているのかもしれない。
そんな“声なき声”に応えるためか、最近では従来型のスタジオと異なり、大音量の音楽がかかる暗闇の中でエクササイズを行う「暗闇フィットネススタジオ」が次々とオープンしているようだ。人目を気にせずストレス解消やダイエット効果も期待できる最新エクササイズとはいかなるものか? トレスポ記者が体当たり取材を敢行した。
※ スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査(平成28年11月調査)」の「オ 運動・スポーツの実施阻害要因 ②運動・スポーツが嫌いな理由」より(基数:運動・スポーツが嫌いな者 1885人)
記者がまず向かったのが、昨年3月に銀座にオープンした「jump one」。ここは、日本初のトランポリンフィットネス専用スタジオだ。トランポリンを用いるフィットネスは、アメリカ発祥が主流のフィットネス界では珍しくヨーロッパ生まれ。チェコからヨーロッパ全土、アメリカへと広がり、ハリウッドセレブやビジネスエリートも実践しているという。
東京メトロ銀座線「京橋」駅から徒歩3分ほどのビルの地下1階にある「jump one GINZA.1」は、平日の午前中ながら多くの人で賑わっていた。ロッカールームで着替えを済ませワークスタジオに入ると、30台近いトランポリンが整然と並んでいる。トランポリンは1人1台で、予約時にスペースが割り当てられるシステム。早速自分のトランポリンに乗って軽く跳ねてみると、想像以上にバランスを取るのが難しい。とはいえ、目の前にはグリップがついているので、万が一でも安心だ。
インストラクターのYASUKAさんが登場し、基本のジャンプのレクチャーと、ストレッチで身体をほぐしていく。その後は照明が暗くなり、ミュージックスタート。45分間のレッスンは、基本のジャンプをはじめ、上半身のひねりを加えたものやトランポリン上でのダッシュ、両手にダンベルを持ってのジャンプなど、さまざまな動作をリズムに合わせて実践していく。トランポリン=高く跳ぶイメージがあるかもしれないが、重心は低く、しかし足は高く上げてジャンプしないとリズムについていくことができない。目の前のYASUKAさんの動きについていくのがやっとで、何とかレッスンを終えた時には「これほどの水分が体内にあったのか!」と思えるほど汗だくだった……。
「腹筋の筋力がつけば、足もしっかり上がるようになり、リズムにもついていけるようになりますよ」とは、jump one PRマネージャーの下渡恵子さん。「トランポリンを使ったトレーニングは、ランニングの1.7倍もの消費カロリーがあると言われています。45分間で450〜800kcal、人によっては1000kcal消費する人もいるほどです」。ジャンプをしながらバランスを取る全身運動によって、体幹や全身の筋肉が同時に鍛えられるため、引き締まった身体になることはもちろん、筋肉の収縮でリンパの流れがよくなり、美肌効果も期待できるという。また、上下運動効果で内臓が刺激されるからか、お通じがよくなる人もいるそうで、同行した女性記者からは「細胞が若返った感じがする!」という声も。さらに、日常生活ではなかなか行わないジャンプという動作に集中することで、レッスン前にあれこれ悩んでいたことはどこへやら……という、昨今話題のマインドフルネス効果も実感できた。
jump oneは現在、銀座と新宿、池袋にスタジオを展開し、8月31日には秋葉原に新スタジオがオープンする。トランポリンの柔らかいマットがクッションとなり、関節への負担も減らしてくれるので、運動不足で怪我が心配という人にもおすすめできそうだ。
[jump one]
[www.jumpone.jp/]
「初めての方はレッスンの流れがわからないから疲れてしまうかもしれませんが、慣れてしまえばラクになると思います」と教えてくれたのは、b-monster SHINJUKUでインストラクターを務めるLISAさん。都内に4つのスタジオを展開するb-monsterは、暗闇でボクササイズを行うNY生まれの格闘系フィットネスを提供するスタジオだ。新宿の靖国通り沿いにあるスタジオは、ライオンのレリーフなどがあしらわれた個性的な受付が印象的で、ワークスタジオには「BOX MASTER」と呼ばれる専用マシンがズラリと並んでいる。ボクシングといえばサンドバッグが思い浮かぶかもしれないが、このマシンを使えばトレーナーがいなくても実践的なミット打ちを体験でき、プロのようなパンチのコンビネーションを身につけられるという。
着替えを済ませてワークスタジオで待機していると、先ほどのLISAさんが登場。ボクサー同様、バンテージを巻き、まずはジャブ・ストレート・フック・アッパーに、ダッキング(防御)といった基本動作を確認する。その後は暗闇となり、大音量の音楽が鳴り響く。45分間のトレーニングは、心拍数を上げるために腹筋、腕立て、スクワット、バービージャンプといった無酸素運動から始まり、中盤のボクシングパートではグローブを装着、LISAさんの合図のもと、ジャブ・ストレートなどのコンビネーションをマシンに打ち込んでいく。スタジオ内には歌舞伎の花道に似たステージがあり、インストラクターが移動しながら体験者の近くで、褒めたり頑張らせたりと“煽って”くるのもポイントだ。パンチのコンビネーションの合間にはバービージャンプやダッシュを挟んだり、一心不乱にパンチを打ち込むラッシュパートがあったりとかなりハードだが、インストラクターに背中を押されて何とかやり終えると、疲労感とともに確かな達成感も! これがb-monsterに人々が惹きつけられる理由なのかもしれない。
「30人ほどいるインストラクターそれぞれで、BGMやトレーニングの構成を考え、オリジナルのプログラムを組んでいます」とLISAさん。彼女の場合はサーキットトレーニングの時間を少し多めに取っているが、インストラクターによっては冒頭の筋トレに重きを置いたり、パンチのラッシュパートに力を入れていたりするため、自分好みのインストラクターを見つける面白さもあるという。
身体をひねる動作が多いボクササイズは、キネティックチェーン理論に基づく全身運動を効果的に行えることが特徴のひとつ。無酸素と有酸素運動の相乗効果で、心拍数が上がり脂肪を燃焼しやすい状態となり、運動後もカロリー消費が起こり続けるアフターバーン効果によって、800〜1000kcalのカロリー消費が期待できるそうだ(記者の場合はレッスン終了後だけで約600kcal消費していた)。「無酸素運動で筋肉をつけて、有酸素運動で脂肪を燃焼させるイメージです。ですからごはんもしっかり食べながら、引き締まった筋肉のついた、脂肪を燃焼しやすい健康的な身体をつくることができます」。パンチを打ち込み続けることがストレス発散になることは言わずもがな。今回が2回目という男性体験者(20代)に話を聞くと、「フィットネスというと女性が多いイメージがあるけれど、格闘技の要素もあるので男性でも入りやすい。これからも続けていきたい」とさわやかな笑顔で話してくれた。
[b-monster]
[www.b-monster.jp/]
jump one、b-monster、どちらのフィットネスもスタジオ内が暗いだけに、下手でも汗だくになっても周りのことが気にならず、大音量の音楽とクラブのようなライティング、インストラクターの“煽り”が追い打ちをかけて、テンションが高いままレッスンを完遂できるところが従来のフィットネスにはない魅力だろう。また、インストラクター、体験者が一体となってひとつのことに集中することで生まれる一体感を感じられるところも、暗闇フィットネスにハマる人が多い理由のひとつかもしれない。どちらにしても百聞は一見にしかず。ぜひ一度、挑戦を!
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