ひと昔前まで、切り傷や擦り傷は消毒液で処置することが一般的でしたが、現在は別の治療法が常識となってきているといいます。変化する治療法、そして間違った思い込みで怪我や病気を悪化させてしまわないように、改めて正しい応急処置を学んでおきたいところ。日本赤十字社医療センターの加藤啓一先生に、家庭でできる応急処置の新常識を伺いました。
軽い切り傷や擦り傷は、かつては傷口を消毒し、乾燥させてかさぶたをつくって治すのが常識でした。しかし現在は、体から出る浸出液をうまく使って再生を促す湿潤療法(モイストヒーリング)が主流。自然治癒力を利用することで、早くきれいに治すことができるといわれています。
●傷が深い、大きい ●出血量が多く、出血が止まらない ●犬や猫、動物などによる噛み傷やひっかき傷 ●傷口に砂や小石、ガラスが入ってしまって取れない ●痛みが続く ●顔の傷 ●化膿している(においのある液体が出る)
やけどはすぐに流水などで冷やし、熱エネルギーによる悪化を防ぐのが応急処置のポイントです。ただし、冷やしすぎると低体温を招くことがあるので10分間を目安にしましょう。また、水ぶくれの中にある水分は浸出液といって再生を促すものですから、つぶさずにそのままにしておきましょう。
●広範囲のやけど ●痛みが長く続く ●顔や局部のやけど ●化膿している ●化学薬品によるやけど ●大きな水ぶくれができている
頭部を打つと血の行き場がないため、皮膚が盛り上がってこぶができます。この場合に有効なのが圧迫止血です。もし、氷や保冷剤があれば、冷やしながら圧迫止血するとなおよいでしょう。
●脳震とうが起きた、意識がない ●傷を伴いそれが大きい ●激しい痛みがある●嘔吐を伴う ●けいれんしている ●鼻や耳から出血もしくは液体が出ている ●手足を動かしにくい
血が垂れないように上を向いたり、ティッシュを詰めて血が止まるのを待ったりしがちですが、鼻血は、鼻中隔(左右の鼻のしきり)の前方からの出血。鼻血を止めるには圧迫止血が有効ですから、鼻をつまむのが治療のポイントです。上を向くと鼻血が喉に流れてしまう恐れがあるため、まず下を向きましょう。
●頭を打った後に鼻血が出た ●ぐったりしている ●意識が低下している ●鼻や頭が痛い ●出血がなかなか止まらない ●繰り返し出血する
風邪をひいたらお風呂に入らないという人も少なくありませんが、入浴していけないのは高熱を伴うときだけ。風邪は、ウイルスによる鼻粘膜や喉粘膜のダメージから始まります。乾燥に弱い粘膜を潤す入浴は有効です。また、放っておけば治るだろうと普段通りの生活を送ってしまうこともありますが、身体を休めて市販薬を服用して様子をみるのがよいでしょう。
●高熱がある ●風邪が長引いて治らない ●風邪以外に疑わしい病気がある
捻挫や突き指をしたら、患部をひっぱったりして痛みを抑えようとするのはNG。1.安静にする(Rest)、2.冷やす(Ice)、3.圧迫して固定(Compression)、4.心臓より高く上げる(Elevation)ことが基本です。頭文字と手順から「RICE(ライス)」と覚えておきましょう。骨折などの可能性があって病院に行く場合も、RICEをしながら向かいましょう。
●痛みが強い、痛みが続く ●腫れがひどい ●出血を伴っている ●変形してきた ●皮膚の色が変わってきた ●指が動かせない
めまいや失神、筋肉痛、頭痛、吐き気、だるさ、大量の発汗がみられたら、熱中症の疑いがあります。その場合は、早急に体温を下げる必要があります。すぐに涼しい場所に移動し、経口補水液を飲み、体を冷やしましょう。自分で水分がとれない場合は、近くにいる人が水をかけるなどして救急車の到着を待ちます。
●異常行動、幻覚、錯乱、興奮している ●けいれんしている ●意識がない ●高体温 ●発汗がみられない ●自分で水分がとれない
虫や毛虫に刺されたら、かゆみを伴ったり、かぶれたりします。かゆいからといってかきむしってはダメ。まずは、毛や針を除去した後、水でよく洗い流し、市販薬を塗りましょう。
●以前にもハチに刺されたことがある ●皮膚の症状(腫れ、発赤、水疱)がひろがってきた ●熱が出た ●症状が長引いている ●エピペンを使用した ●かゆみ、痛みが強い
怪我をしたときや持病が悪化したときに備えて、自宅の救急セットはきちんと揃えておきたいもの。以下のようなアイテムは必ず常備しておきましょう。
日本赤十字社医療センター副院長・麻酔科部長、医学博士/1980年、群馬大学医学部医学科卒業。麻酔科医として治療や指導に当たるとともに、日本赤十字社の活動として応急手当や救急法等の啓発を行う。『養護教諭のための救急処置』『いざというときのための応急手当ミニハンドブック』など書籍の監修も行っている。
※内容は予告なく変更される場合があります。
出版社名:講談社
119番通報から救命救急センターでの治療まで、救急医療の全体像がよくわかる。小児の心肺蘇生法、アナフィラキシーショック、外傷時の搬送体位などについても加筆。
コメディカル向けの初学者用テキストとしても最適です。
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