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アメリカ大統領選を知る
vol.91

“あつ森”で選挙活動!?
大統領選の今

インターネットの普及により、新聞やラジオ、テレビに限られていた大統領選のメディア戦略も大きな変化を遂げています。2020年の大統領選では、あの大ヒットゲームが選挙活動に活用されるとか……?

討論で勝っても支持率は下がる……

 大統領選では一般投票までのあいだに、共和党、民主党の両党の候補者が全米でテレビ放映される討論会で対決するのが恒例となっています。無党派層やどちらの候補者に投票するか決めかねている有権者から支持を得るためには、テレビ討論会でしっかりと政策を訴えることが大切……と思ってしまいますが、必ずしもそれが有利に働くわけではないようです。
 テレビ討論会の難しさを印象付けたのが1960年、共和党のリチャード・ニクソンと民主党のジョン・F・ケネディで争われた大統領選です。この年、初めて導入されたテレビ討論会では、ケネディの若々しい雰囲気が暗く疲れたような印象のニクソンと好対照となり、その後の勝利を左右する要因のひとつになったといわれています。
 また、2000年の選挙では当時副大統領で論客として知られた民主党のアル・ゴアが、共和党のジョージ・W・ブッシュに討論でこそ勝っていたものの、ブッシュの的外れな受け答えにため息をついたりあきれたりする態度が「失礼」だと視聴者に受け止められ、逆に好感度が下がってしまうこともありました。

デジタル広告、トレンドはゲーム!?

 候補者によるテレビ広告に莫大な費用を注ぎ込み、相手候補を陥れるようなネガティブ広告を大量に放映することも大統領選ならではの光景でしたが、近年はデジタル広告がその影響力を増しているようです。
 新聞、ラジオ、テレビからネットへのターニングポイントとなったのが、2008年の大統領選。民主党のバラク・オバマは有権者との接点となるSNSを組み込んだ公式サイトを充実させることで、小口の個人献金を多く集めて選挙活動に弾みをつけました。
 前回の選挙ではドナルド・トランプがTwitterやFacebookを駆使した選挙戦を展開し、女性初を目指した民主党のヒラリー・クリントンを退けたのも記憶に新しいところ。この選挙ではのちにロシアのハッカー集団が介入、イギリスのコンサルティング会社がSNSを通じて有権者の個人情報8700万人分を不正に得て世論操作をしたことも話題になりました。
 そして今回の大統領選では、新型コロナウイルスの拡大により党大会がオンライン化、遊説もままならない状況の中、ゲームソフトを活用する事例も出てきました。民主党のジョー・バイデンはNintendo Switchのゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」を選挙活動に活用することを発表したのです。ゲーム内で陣営のロゴを無料公開し、ユーザーは看板やTシャツなどのデザインとして反映できるということですが、世界で2000万本以上売り上げる大ヒット作の活用にどれだけの効果があるのでしょう?

ネガティブなテレビ広告の古典

 「もっとも汚いコマーシャル」と呼ばれているのが、1964年の選挙で民主党の現職リンドン・ジョンソンが“一夜だけ”放映したテレビ広告です。その内容は、幼い少女がひなぎくの花弁を1から10まで数えるシーンに始まります。数え終わるとカウントダウンする男の声、そして轟音とともに立ち上るキノコ雲が映し出され、「子どもたちが生きる世界をつくるか、それとも闇に沈んでいくか」とジョンソンへの投票を呼びかけるナレーションが続くというもの。キューバ危機から間もない当時、相手陣営が勝利すると核戦争が引き起こされるのでは……と恐怖心を煽ったことが功を奏してか、ジョンソンは勝利を収めます。

コロナ禍で投票方式にも変化

 さて、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスは今回の大統領選にも影響を及ぼしています。この夏、話題になったのは、プロバスケットボールNBAがチームの本拠地や練習施設を投票所として開放するというもの。
 人種差別問題への抗議行動や啓蒙活動を活発化させているNBAですが、社会変革のための第一歩は選挙からという機運の高まりを受け、バスケットボールアリーナの大きな空間を活かし、地域の有権者の安全を確保しながら投票しやすい環境づくりを目指しているといいます。すでに多くのチームが賛同しているほか、大リーグのロサンゼルス・ドジャースの本拠地ドジャースタジアムも、大リーグとして初めてスタジアムを投票所として開放できるように準備を進めているのだそう。

郵便投票も急増?

 コロナの感染が収まらないことから、今回の選挙では「郵便投票」が急増すると見られています。前回、投票した人の21%を占めた郵便投票は、もともと投票所から遠く離れたところに住む有権者のために一部の州で行われてきた投票方法ですが、人混みを避けるために郵便投票を選ぶ有権者も増加すると見込まれているんです。
 8月上旬の時点で、郵便投票のために兵役や病気など厳格な理由を必要とする州は全50州のうち8州のみとなったものの、懸念されるのは集計の遅れや無効票が多く出ること。人種問題やコロナの拡大で混乱続きの状況下での選挙戦、一体どんな結末を迎えるのでしょう?

現職のドナルド・トランプが再選するか、それとも民主党のジョ−・バイデンが勝利するか。2020年の大統領選、一般投票はもう間もなくです。

参考文献(順不同)
明石和康『大統領でたどるアメリカの歴史』(岩波書店)/橋本二郎『大統領選挙・連邦議会を知るための アメリカ政治文化辞典』(三省堂)/『簡単解説 今さら聞けないアメリカ大統領選のしくみ』(文響社)/有馬哲夫『中傷と陰謀 アメリカ大統領選狂騒史』(新潮社)/在日米国大使館(ホームページ)/ワシントン・ポスト(同)/日本経済新聞(同) 等

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