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アメリカ大統領選を知る
vol.91

超大国のリーダーを決める
アメリカ大統領選を知る

アメリカ合衆国の大統領を決める4年に一度の大統領選がいよいよ間近になりました。アメリカのみならず世界の行く末に大きな影響を与える大統領選ですが、選挙人をはじめとするその仕組みにはいまいちピンとこないことも……。大統領選にまつわる疑問を、今月の「Trace」では紐解いてみたいと思います。

150年以上続く2大政党の一騎打ち

 エンタメイベントと見まがうような選挙運動やメディア報道、そしてアメリカ国民の盛り上がりから、間もなく行われる11月の一般投票が大統領選の勝敗を決するように思えてしまいますが、実は、大統領選は「大統領選挙人(electors)」が次期大統領を選ぶ間接選挙の形式を取っており、正式には12月の選挙人投票を経て決定されます。約1年に及ぶ大統領選の流れをまずはおさらいしてみましょう。
 1860年の選挙で共和党のエイブラハム・リンカーンが勝利して以降、大統領選は共和党と民主党の2大政党がその座を争うかたちが続いています。もちろん、第3政党や無所属の候補者もいるものの、事実上は両党それぞれで候補者を一本化するための予備選挙と、各党の代表候補者による本選挙の2本立てとなっています。

得票総数ではなく選挙人数?

 11月上旬の一般投票で、有権者は自身が決めた候補者に投票しますが、実はこの投票で選ばれるのは前述の選挙人。大統領選が間接選挙とされるのは、一般投票で一番多くの票を得た候補者が勝つのではなく、この選挙人を過半数以上獲得した候補が勝利するからなんです。
 選挙人とは大統領を選ぶ権限を持った人のこと。州の人口に応じて各州に人数が割り当てられていて、大統領になるためには538人いる選挙人のうち過半数の270人を獲得する必要があります。
 選挙人は共和党、民主党どちらの候補者に投票するかをあらかじめ誓約しており、大半の州は一般投票で1票でも多く得票した候補者が選挙人をすべて獲得する「勝者総取り方式」を採用しているため、11月の投開票で選挙人の獲得数が明らかになると、実質的に当選者が決まるという仕組みなんです。

限界が露呈しているとも

 選挙人制度が導入されたのは、建国間もない頃に国のリーダーを選ぶのは一定の教養を持つ人に限るべきだという考え方が根強かったからだそう。制度が始まって以来、200年以上にわたって選挙人の獲得数による勝敗と一般投票の得票総数による勝敗はほとんど一致してきたものの、近年は一般投票の得票総数で上回っても選挙人の獲得数で敗れることが珍しくなくなりました。
 前回(2016年)選挙をはじめ、国を混乱に陥らせたのが2000年のジョージ・W・ブッシュとアル・ゴアの対決。選挙人の多いフロリダ州の開票が難航したことで数週間かけて再集計が行われ、36日間も次期大統領が決まらない異常な事態に……。投票用紙の複雑さも要因でしたが、選挙人の多い州やスイングステート(大統領選のたびに支持政党が変わる激戦州)をいかに押さえるかという選挙方式の課題を浮き彫りにしました。

選挙日が平日のヒミツ

 日本では投票日は日曜などの休日に設定されることが一般的ですが、大統領選の一般投票は「11月の第1月曜日の次の火曜日」とされていて、今回も2020年11月3日火曜日の「平日」です。わざわざ平日に投票日を設定したのには、どんなワケがあるのでしょう?
 もともと一般投票の投票日は各州で統一されておらず、「11月の第1月曜日の次の火曜日」となったのは1848年の選挙から。当時のアメリカは農業が中心で、国民の多くは農業に従事するキリスト教徒だったため、秋の収穫が一段落して冬が始まる前の11月上旬なら農繁期を避けて投票できると考えられたようです。
 火曜日が選ばれたのは、日曜日はキリスト教の安息日にあたり、交通機関が乏しい中で遠方の投票所に向かわなければならない有権者の移動時間も考慮して選ばれた、また水曜日は多くの街で市場が開かれていたために、火曜日が最適だったといわれています。
 「第1月曜日の次の火曜日」と細かく決められている理由はもう少し複雑で、かつての一般投票は12月の選挙人投票から逆算して34日以内であれば州独自に設定できたものの、それではほかの州が遅れて投票日を設定した場合に影響を与えてしまうため、34日以内に収まる「11月の最初の月曜日の次の火曜日」が改めて設定されたのだそう。
 現在ではインディアナ州やデラウェア州、ハワイ州など一部の州では投票日を休日としたり、投票時間が勤務時間と重なっている場合、2時間以内なら休暇時間として投票を行うことを州法で認めているカリフォルニア州のような例もあります。

2期8年の不文律

 フランスは最長で2期10年間、ロシアは最長で2期12年間など国によって差がある大統領の任期制限。アメリカは最長で2期8年間ですが、これは初代大統領ジョージ・ワシントン以来の伝統となっています。
 1789年から1797年まで大統領を務めたワシントンは、のちの大統領にとって自分が“前例”になることを常に念頭に置き、ヨーロッパの国々の君主のように終身の大統領になることを望む支持者がいても2期で退きました。民主主義の国であるアメリカの指導者が、一人で長くその権力の座にとどまることを良しとしなかった信念が「2期8年」という不文律を生んだのです。
 ただし、唯一の例外が1933年に就任したフランクリン・ルーズベルト。1930年代前後の大恐慌や第2次世界大戦の混乱などを理由に、ルーズベルトは1944年の大統領選にも出馬し、異例の4選を果たしました(4期目就任からわずか3カ月足らずで急死)。

1951年には憲法が改正され、最大でも2期8年までと制限されるようになり、現職のドナルド・トランプ大統領も2期目を狙って選挙戦を繰り広げています。次ページでは大統領選ならではのメディア戦略や、コロナ禍における投票の変化についても見ていきます。

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