
このページでは、テントをはじめ、キャンピングカーやキャンプ料理のアイテムなど、キャンプに欠かせないアイテムにまつわるトリビアをご紹介します。まずはテントのお話から!
もともと洞窟のような自然の地形を利用して暮らしていた人類。木や石、場所によっては雪なども使って住居をつくり、定住するようになった一方で、家畜を育てたり狩猟生活を続けたりする人々は、持ち運びに便利なテントを考え出します。そんなテントがレジャー目的のキャンプで使われるようになった19世紀後半は、木のポールの頂点にロープをわたし、その上に布をかぶせて地面に留めるシンプルなA型テントが主流でした。
その後も、窮屈なA型テントを改良したジプシーテントや、複数のポールを組み合わせたフレームを用いて家のようなかたちになるコテージテントなど、さまざまなテントが登場しましたが、テントの世界に革命を起こしたのが、1975年にアウトドアブランドのTHE NORTH FACEがリリースした世界初のドーム型テント「オーバルインテンション」です。思想家で建築家、デザイナーでもあるバックミンスター・フラーが提唱する“ジオデスィックドーム理論”を具現化したというテントは、最小の面積で最大の容積と強度を得られるのがポイント。発表の翌年には、イギリス・カナダの合同隊によるパタゴニア遠征で時速200kmもの暴風雪に耐え、その信頼性の高さを証明しました。
アウトドア人気が定着した近年は、キャンピングカーで車中泊を楽しむ人も増えてきました。2005年には約5万台だった国内のキャンピングカー保有台数も2018年には11万台超と、2倍以上に増加しています。そもそもレジャー目的のキャンピングカーが世の中に登場したのは19世紀後半のこと。世界で現存する最古のキャンピングカーは、イギリスのブリストル市立博物館に展示されている「ワンダラー」とされています。
“放浪者”という名前のキャンピングカーは、医者であり冒険作家でもあったゴードン・ステーブルズが1884年に注文製作したもの。それまでも馬車に居住スペースを設けたものはありましたが、キャンプを目的につくられたのはワンダラーが初。全長5メートル超、最大高も3メートル以上の馬車の内部はビクトリア朝様式の客間のように豪華だとか。
日本初のキャンピングカーとされるのが、1958年、画家の桐野江節雄が自作した「エスカルゴ号」です。三輪トラックを改造してベッドやガソリンストーブの調理台などを備えたもので、桐野江はこのエスカルゴ号でアメリカやメキシコ、フランス、ドイツ、オランダなどを巡りながら絵を描いたのだそう。桐野江は5年にわたる世界周遊から帰国後、日本初のキャンピングクラブ、日本オートキャンピングクラブ(NACC)を設立して初代会長を務めるなど、日本のオートキャンプ普及に尽力した人物でもあるんです。
キャンプの楽しみといえば食事。なかでも飯盒(はんごう)で炊いたほかほかのごはんはキャンプご飯の定番のひとつです。キャンプに欠かすことのできない飯盒ですが、そのルーツは意外にもドイツにあります。
19世紀半ば頃、ドイツの軍隊には兵隊のために食料や調理器、燃料などを運搬する専門部隊がいましたが、戦闘などの影響でその部隊と離ればなれになってしまうとご飯にありつけなかったため、兵隊たちの個人用の調理器として開発されたのが飯盒だったのです。飯盒は各国の軍隊に採用されるようになり、大正時代のキャンプブームを牽引した入門本『キャムピング』にも、炊事用具と食器にかんする記述で“軍隊用の飯盒で米を炊く”と書いてあります。黎明期から日本のキャンプには飯盒がつきものだったんです。
日常のアイテムとして欠かせないトートバッグ。実は、トートバッグはキャンプのために生まれたといっても過言ではないもの。電気冷蔵庫のなかった20世紀中頃まで、トートバッグは野外で氷や水を運搬するためになくてはならないものだったんです。なかでもアウトドアブランドのL.L.Beanが1944年に発売した「ボート・バッグ(ボート・アンド・トート・バッグ)」は、厚手の生地を使うことで非常に丈夫なだけでなく、外気温をシャットアウトすることで氷が溶けにくく、水も漏れにくいと人気を呼んだアイテム。頑丈で実用的なデザインだからこそ、キャンプに限らず、今でもさまざまな用途で使われているんですね。
ランタンやバーナー、寝袋を台風などの災害対策として備えることも珍しくなくなりました。アウトドアに限らない使い道が広がるキャンプアイテム、備えあれば憂いなしかも?
参考文献(順不同)
明瀬一裕『オートキャンプの歴史』(デザインエッグ社)/アラン・コルバン『レジャーの誕生』(藤原書店)/一般社団法人日本オートキャンプ協会(ホームページ)/アウトドアブランド各社ホームページ 等