貸本マンガや月刊誌が主流だった時代と比べて、毎週発行される少年マンガ誌の登場は、マンガの制作現場や楽しみ方も変えたようです。今では当たり前の“分業制”も、そのひとつとか?
週刊少年マンガ誌に連載を持つマンガ家は、毎週締め切りに追われて多忙なイメージがありますよね。アシスタントとともに“分業”で仕事を進める姿が思い浮かびますが、手分けをしてマンガ制作を進めるようになったのも、マンガ誌の“週刊化”が大きく影響しているようです。
週刊少年マンガ誌登場以前にも、忙しい時期には編集者が墨ベタ作業(黒い部分を墨で塗る作業)を手伝ったり、マンガ家仲間がサブキャラクターや背景を描くことはありましたが、毎週の締め切りに追われるようになると、アシスタントを雇うだけではなく、「プロダクション」と呼ばれる分業体制を整えるマンガ家が増加します。
1959年のさいとう・たかをのさいとう・プロダクションを皮切りに、手塚治虫の虫プロダクション、吉田竜夫と九里一平の竜の子プロダクション、横山光輝の光プロダクション、白土三平の赤目プロダクション、水木しげるの水木プロダクションなど、人気マンガ家が組織としてスタッフを抱えるようになり、藤子不二雄(当時)、赤塚不二夫、石森章太郎(当時)らも、藤子プロ、フジオプロ、石森プロと独立しました。ちなみに、初めてのマンガ専門プロダクションとなったさいとう・プロダクションでは、作品の扉(表紙)や最後に、脚本や作画といった各パートの担当スタッフを、映画のようにクレジット付きで紹介することが今でも定番になっています。
書店やコンビニで山積みになっている週刊少年マンガ誌を見ると、冊子のページがほかの雑誌と比べてカラフルですよね。ザラザラした質感で、色のついたこの紙は「印刷せんか紙」と呼ばれていて、週刊少年マンガ誌の成長とともに生産量を増大したものなんです。
印刷せんか紙は、新聞古紙や印刷所や製本所から出る裁ち落とし(インキが刷られていない部分)が原料で、比較的軽いものの、束(つか)があるために厚みが出て、読み応えがあるように見せることができると長年使われているそう。
では、なぜ紙に色がついているのかといえば、紙から完全にインキを除くことができず、仕上がりが黒ずんでしまうから。週刊少年マンガ誌が出始めの頃は誌面に変化をつけるため、白い紙に数色の色インキを使っていたものの、コストの問題から黒インキ一色で誌面に変化をつける方法が検討され、色違いのせんか紙の組み合わせが考案されたのです。ちなみに、印刷せんか紙の色には時代によって流行があり、昭和40年代はピンクや浅黄、ヒワ(黄緑)が人気だったといいます。
週刊少年マンガ誌の人気作を題材にしたテレビゲームで楽しんだ、という方も多いのではないでしょうか。こうしたマンガとゲームのメディアミックスが活発になったのは、『週刊少年ジャンプ』の人気連載だった『キン肉マン』(ゆでたまご)をベースにした「キン肉マンマッスルタッグマッチ」(バンダイ)が1985年に発売されて以降といわれています。
1980〜90年代は人気連載のゲームソフト化が積極的に推進され、なかでも『週刊少年ジャンプ』で『Dr.スランプ』や『DRAGON BALL』を連載していた人気マンガ家の鳥山明をデザイナーに起用した「ドラゴンクエスト」(エニックス/1986年発売)は、みなさんご存知の通り、今でもシリーズが続く大ヒット作。週刊少年マンガ誌なくして、国民的ゲームの誕生もなかったかもしれません。
週刊少年マンガ誌黎明期にもマンガの世界を楽しめるゲームは存在しました。特にボードゲームの「野球盤BM型 魔球装置付き」(エポック社)は、『週刊少年マガジン』の人気作『巨人の星』の主人公・星飛雄馬が投げる「消える魔球」を野球盤で再現できるというもの。「消える魔球を使えるのは1イニング3球まで!」といったルールが子どもたちのあいだでつくられるほど一大ブームになったといいます。マンガの世界を追体験できるキャラクターゲームは、いつの時代も私たちを夢中にさせてくれるんですね。
連載マンガをまとめて読むのに重宝するのが単行本(コミックス)。今ではコンビニ専用の単行本や文庫サイズのものなど、さまざまなバリエーションがありますが、週刊少年マンガ誌の黎明期には「一度読んだマンガをまた読みたいと思う読者は少ない」と考えられていて、雑誌に掲載されたマンガのほとんどがそのまま消えていく運命だったようです。
それが変わったのが1970年代のこと。オイルショックの影響で雑誌の広告収入が落ち込んだ分をカバーするため、出版社が自社でマンガを単行本化することが定着したのだそう。書店もマンガ専門の書棚を増やして単行本が浸透すると、雑誌は読まないけれど単行本は読むといった読者層の開拓や、アニメで知ったマンガを単行本で改めて読むという新しい楽しみ方も生まれました。
最近では、バスケットボールマンガの金字塔といわれ、単行本の累計発行部数が1億2000万冊を誇る『SLAM DUNK』が“新装再編版”として2018年6月に発売開始されましたが、単行本化は通常の単行本、その後に出た“コミックス完全版”と合わせて3度目。同作の根強い人気を物語っているのはもちろん、単行本がお気に入りのマンガを手元に置いておくためのコレクションアイテムとしてもすっかり浸透したのがわかります。
現在はスマートフォンやタブレット端末を使って、電子書籍アプリでマンガを楽しむ人も多いでしょう。さまざまなスタイルで楽しまれ続ける週刊少年マンガ誌。これからも私たちをワクワクさせてほしいですね!
参考文献(順不同)
大野茂『サンデーとマガジン 創刊と死闘の15年』(光文社)/紙のはなし編集委員会編『紙のはなしⅡ』(技報堂出版)/竹内オサム・西原麻里編著『マンガ文化 55のキーワード』(ミネルヴァ書房)/週刊少年マガジン編集部編『少年マガジン・トリビア134』(講談社)/小学館漫画賞事務局編、竹内オサム監修『現代漫画博物館 1945-2005』(小学館)/中野晴行『マンガ産業論』(筑摩書房)/米沢嘉博『戦後少女マンガ史』(筑摩書房)/『ユリイカ 2014年3月号』(青土社) 等