最近もっとも話題になったスニーカーといえば、ナイキの“厚底シューズ”ではないでしょうか。東京マラソン2020で日本新記録樹立にも貢献した最新スニーカーをはじめ、大ヒットした子ども用スニーカー、AIを活用したサイジングなど、近年のスニーカー事情をおさらいします。
2020年3月に開催された東京マラソン2020で多くのトップ選手が着用したナイキのマラソンシューズ、エア ズーム アルファフライ ネクスト%。“厚底シューズ”という呼び名でニュースを賑わせたこのシリーズは、フルマラソンの2時間切りを目指して、2013年からアップデートが続けられている一足です。
2019年には試作品を履いたケニアのエリウド・キプチョゲ選手が、非公式ながら2時間切りとなる1時間59分40秒を記録。2020年の箱根駅伝では出場選手の8割以上が同シリーズを着用するなど、長距離の世界に革命をもたらした一足は、その影響力の大きさから、世界陸連がシューズ規定を厳格化したほど。ちなみに、東京マラソンで大迫傑選手も履いた新モデルの先行発売時には「過去2年のマラソンで男子は2時間50分、女子は3時間40分以内で完走した実績が条件」という異例の販売方式を導入したことでも話題になりました。
近年、日本の子どもの間で爆発的なヒットとなったのが、アキレスの「瞬足」シリーズです。2003年の発売から2019年3月までの累計販売数が7000万足にも上るという同シリーズ、それほど受け入れられた理由は、左右非対称のソールというスニーカーの常識を覆すデザインでした。
スニーカーのソールは左右対称が一般的ですが、瞬足は子どもが転ばずに力いっぱい走れるようにと、左足の外側と右足の内側にスパイクを配置することで、コーナーで踏ん張りが利き、からだのバランスが崩れにくい構造を採用。新たなシューズ開発のヒントを得るため、小学校の運動会を定点観測していた開発者が、運動会の徒競走では左回りが多く、コーナーでバランスを崩したり、転倒したりする子どもが少なくないことから着想を得たといいます。運動会が近付くと街の靴屋から消える……という伝説もささやかれた瞬足は、ピーク時には年間売上650万足、子ども向けのスニーカー史上の3〜4割のシェアを占め、いまでは子どもの足の健康に着目した“上履き”のシリーズも展開されています。
スニーカーを購入する際に、頭を悩ませるのがサイズ選び。お店で試し履きできれば一番ですが、オンラインストアとなると、いざ注文しても足に合わなかった……なんてことも。そんな悩みをテクノロジーで解決しようというサービスが、2020年3月に始まった「ZOZOSHOES」です。
ネット通販大手のZOZOが靴の専用モールの開始と合わせてローンチしたこのサービスは、足のサイズを計測できる独自開発のマット(ZOZOMAT)に裸足で乗り、スマホの専用アプリで撮影すると、甲の高さや幅など足のサイズや特徴をミリ単位で3D計測、相性の良い靴をAIが教えてくれるというもの。オンラインでのスニーカー選びも、ますます便利になりそうです。
アメリカではスニーカーのサブスクリプションサービスも始まっています。2019年8月、ナイキがスタートしたのが「NIKE ADVENTURE CLUB」。ナイキやコンバースの子ども向けスニーカー約100種類から、月額料金に応じた数のスニーカーを選ぶことができるサービスで、気に入ったものはそのまま使い続け、要らないものは半年に一度のペースで回収し、リサイクルや寄付に充てられるそう。親や子どもにとっては、成長に合わせて適正サイズのスニーカーを履き続けられる安心感があり、金銭的な負担も軽減できるほか、ブランドにとっても環境への取り組みや、子どものうちからブランドに親しんでもらう機会になっているとか。
世界中にコレクターが存在するスニーカーの世界。ネットの登場で人気モデルの争奪戦は激化、プレミア価格も高騰し続け、アメリカでは年間1000人以上がスニーカーのために命を落としているともいいます……。
そんなスニーカーシーンを象徴する事件のひとつが、2005年、ニューヨークで販売されたナイキの限定品にまつわるもの。ストリート系ブランド、Stapleがナイキとコラボレーションした限定品を求めて、発売数日前から長蛇の列ができた店舗の周りは、武器を隠し持った人も入り混じるなど次第に不穏な雰囲気に……。発売日当日は警察が出動し、購入者は店舗の裏口からタクシーに乗せる“脱出劇”まで繰り広げられ、販売価格72ドルのスニーカーは、今では2万ドルは下らないとか。世界最大のスニーカー・ストリートファッションの祭典といわれ、さまざまなファッションイベントの中でも大きな影響力を持つアメリカの「COMPLEX CON」でも、限定スニーカーの発売ブースには長蛇の列ができ、暴動が起きるほどの熱狂が繰り広げられています。スニーカーヘッズ(中毒者)の欲求は、留まるところを知らないようです。
アメリカでは年間10兆円、日本でも1兆円といわれるスニーカー市場。お気に入りの一足を探す楽しみは代え難いものがあるものの、行き過ぎはくれぐれも禁物ですね。
参考文献(順不同)
小澤匡行『東京スニーカー史』(立東舎)/川村由仁夜『スニーカー文化論』(日本経済新聞出版社)/ロドリゴ・コラール、アレックス・フレンチ、ホーウィー・カーン『SNEAKERS』(スペースシャワーネットワーク)/フィル・ナイト『SHOE DOG』(東洋経済新報社)/『WWDジャパン 2018年12月3日号』(INFASパブリケーションズ)/日本経済新聞(ホームページ)/各シューズメーカーホームページ 等