
前ページではAMラジオのエピソードを中心に紹介しましたが、もちろんFMでも深夜ラジオは人気。まずは旅情を誘うあの番組のトリビアから。
民間FM放送で日中・深夜を問わずもっとも長寿の番組といえば、1967年にスタートした「JET STREAM」です。東海大学の超短波放送実用化試験局(FM東海)で放送が始まり、1970年からTOKYO FMに引き継がれました。
“夜間飛行”に見立て、空港の喧噪や旅客機のエンジン音、管制塔の交信といった旅情を誘う音と、テーマ曲「ミスター・ロンリー」からスタートする番組は、“機長”であるパーソナリティの良質な語りと音楽で海外旅行の魅力を伝え続けています。現在は俳優の福山雅治が機長を務めていますが、初回から27年間フライトを務めた初代機長の城達也は、役づくりのために実際の操縦士を意識してスーツを着用し、夜空を飛ぶ旅客機のコックピットをイメージして、スタジオの照明も落としながら収録に臨んでいたそう。
寝付けない人だけでなく、朝が早い職業の人や、長距離トラック、夜行バスのドライバーらからも愛される深夜ラジオ。その黄金期といえる1960年代後半から70年代には、長距離ドライバー向けに「走れ!歌謡曲」(文化放送)や「歌うヘッドライト~コックピットのあなたへ~」(TBSラジオ)など自動車メーカーがスポンサーとなった番組も登場しました。
特に「走れ!歌謡曲」は1968年11月にスタートし、半世紀以上の歴史がある文化放送の最長寿番組。音楽、天気、交通情報などを生放送で発信し、メールやSNSが主流になった今でもアナログな投書が多く寄せられ、その数は文化放送の中でもトップクラスだそう。リスナーの嗜好の変化などから2021年3月での終了が発表されましたが、ラジオを通して高度成長期から日本を支え続けた番組、最後まで走り続けてほしいですね。
音楽を聴くならレコードかラジオの“エアチェック”が主流だった時代、深夜ラジオでも名曲にまつわるさまざまなエピソードが生まれました。たとえば、最新の洋楽を紹介していた「オールナイトジョッキー」(ニッポン放送/1959年10月スタート)は、ラジオDJの草分けといわれる糸居五郎がビートルズのデビュー曲である「ラブ・ミー・ドゥ」を日本で初めて紹介したことでも知られる番組です。
神戸の独立系AM局であるラジオ関西の「ミッドナイト・フォーク」(1966年11月スタート)は、ザ・フォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」を電波に初めて乗せ、その後「オールナイトニッポン」でも流されたことで同曲は全国区の人気となりました。2カ月間で180万枚を売り上げ、オリコン初のミリオンシングルという快挙も成し遂げています。
吉田拓郎の「春だったね」は、「パック・イン・ミュージック」の常連リスナーが投稿した同タイトルの詩をきっかけに生まれたもので、そのリスナー自身もプロの作詞家になったといいます。また、同番組ではアナウンサーの林美雄が担当する最終回で、荒井由実の「旅立つ秋」が初オンエアされました。林は彼女の才能をいち早く見出し、番組にも度々呼んでいたことから、ユーミンが林に捧げるために同曲を書き下ろしたといいます。
近年はインターネットを利用してラジオが聴けるradikoの普及も後押しして、深夜ラジオが再び活況の時代を迎えています。昭和から続く長寿番組をはじめ、ラジオ界を長年牽引する伊集院光や爆笑問題ら大御所パーソナリティや人気芸人たちの冠番組、声優やアニメ関連の“アニラジ”など、さまざまな番組が人気を博す中、2019年末から単発で続いている「ASMR特番」(文化放送)も話題になっているようです。
ノルウェーのテレビ局が12時間の特別番組で“薪が燃えているだけ”の映像を8時間流し続け、高視聴率を記録したことから企画された深夜番組で、2019年末の初回放送は1時間半の放送時間のほとんどでたき火の音を流し続けるという異色の内容でした。3Dオーディオ技術を駆使し、ヘッドフォンで聴くと自分のすぐそばでそれが行われているような感覚を味わえると評判を呼び、中華鍋でチャーハンを炒める音で構成された「チャーハン特番」や「花火大会特番」、虫の鳴き声や川のせせらぎをバックにハイボールをつくる「ハイボール特番」などユニークな試みが続けられています。
新たな番組も登場し、進化する深夜ラジオ。radikoを活用すれば時間に縛られずに聴ける今、夜中は起きていられないという人や深夜ラジオ未体験という人も、一度耳を傾けてみてはいかがでしょう。
参考文献(順不同)
文化放送&ニッポン放送&田家秀樹編 『セイ!ヤング&オールナイトニッポン70年代深夜放送伝説』(扶桑社)/伊藤友治+TBSラジオ編著『パック・イン・ミュージック 昭和が生んだラジオ深夜放送革命』(DU BOOKS)/宇田川清江『眠れぬ夜のラジオ深夜便』(新潮社)/室井昌也『ラジオのお仕事』(勉誠出版)/『日経トレンディ 2020年11月号』(日経BP)/ラジオ各社ホームページ 等