
小学校でプログラミング教育が必修化されて1年。専門的と捉えられがちなプログラミングですが、そもそもなぜ子どもの頃から学ぶ必要があるのでしょう? どんな経緯でプログラミング教育がスタートしたのか、日本のプログラミング教育の変遷を辿っていきます。
初等・中等教育である小学校や中学校でプログラミング教育の必修化導入に向けた取り組みが始まったのは2013(平成25)年頃のこと。日本政府が発表した「世界最先端IT国家創造宣言」で初めて示され、翌年に加えられた変更では初等・中等教育でプログラミング教育を実施すると明確に述べられたことから、民間のプログラミング塾などが活発化したといいます。
プログラミング教育は必ずしもプログラマーを養成することが目的ではなく、自分がやりたいことを効率よく行う、好きなものをつくってみるなど、道具としてプログラミングを役立てることや、論理的な考え方や問題解決能力、高度に情報化された世の中の仕組みを理解できるプログラミング的思考を得ることが狙い。家庭科の調理実習で料理を学んだ経験が、料理人にならなくても生活のさまざまな場面で生かされていることと、通じるものがあるといえそうです。
現代はIoTやビッグデータ、AIなどによる第4次産業革命の時代といわれていますが、プログラミング教育で得られる知識や技能は、さまざまな業界や地域社会において活用されることが期待されているんです。
日本のプログラミング教育は、工業、商業、情報といった高等学校の専門学科で、職業教育的なアプローチの情報処理教育としてスタートしました。社会の情報化とともに発展してきたその流れをざっと振り返ってみます。
この年、高等学校の専門学科で情報処理教育がスタートします。たとえば工業高校の情報技術科では、電子計算機を利用する工業生産や、電子計算機の製造などの分野に従事する技術者を養成するために、情報技術実習、プログラミング、数値計算法、システム工学、電子計算機、プログラム理論などの科目が用意されていました。
専門教育だったプログラミング教育を含む情報処理教育は、情報化の進展とともに、普通教育でも行われるようになります。中学校の技術・家庭科にプログラミングを学ぶ「情報基礎」が新設されたほか、数学や理科などでコンピュータに関する内容が盛り込まれました。
情報基礎は必修ではなく選択領域でしたが、その内容は、プログラムで絵を描く授業や、ものづくりを意識した計測・制御など幅広いものだったそう。1970年代以降のコンピュータで広く使われてきた初心者向けプログラミング言語のBASICや、1967年に教育向けに設計されたLOGOなどが用いられていたといいます。
高等学校に戦後初の新教科「情報」が設置され、新高校生は「情報A」「情報B」「情報C」のいずれか1つを必ず履修することになりました。とはいえ、多くの学校ではコンピュータの経験が浅い生徒にも対応した基礎的な内容の情報Aが教えられ、内容にプログラミングを含んでいる情報Bを学ぶ生徒はわずかだったとか。また、前年の2002(平成14)年には、中学校の技術・家庭科で「情報とコンピュータ」が必修となったものの、こちらもプログラミングは選択で、学んだ生徒はごく一部でした。
中学校ではこれまで選択的に学ばれていたプログラミングが「プログラムによる計測・制御」として2012年から必修化され、先進的な教育現場ではマイコンボードなど専用キットを用いた授業や、Scratchベースのブロックプログラミング言語、フローチャート型プログラミング言語、C言語などのテキスト型言語などさまざまなプログラミング言語が使われているといいます。
一方、高等学校では翌年の2013(平成25)年に、「情報」で初の学習指導要領の改訂が行われ、情報A、情報B、情報Cは「社会と情報」と「情報の科学」に再編されました。プログラミング教育は「情報の科学」で実施されることになりましたが、大半の生徒はプログラミングが内容に含まれていない「社会と情報」を履修していたそう。
高等学校では、情報活用能力を育むことが一層重要になってきているという課題を踏まえて、「社会と情報」「情報の科学」の2科目からの選択必修が見直され、2022(令和4)年からは文系・理系を問わず、すべての高校生がプログラミングやネットワーク、情報セキュリティについて学ぶ「情報Ⅰ」と、その応用となる選択科目「情報Ⅱ」が始まります。WebやAIなど幅広い分野で利用されているPythonをはじめ、JavaScript、VBA、Apple社が開発したプログラミング言語Swift、教育用プログラミング言語のドリトルなどが用いられる予定だそう。 また、2025(令和7)年の大学入学共通テストでは、新たに「情報」の教科が加わることが発表されています。プログラミングやデータサイエンスに必要な統計処理の知識などを試すもので、2021(令和3)年3月に公表されたサンプル問題では、比例代表選挙の議席数の配分方法をプログラミングを用いて検討する、サッカーのワールドカップで予選敗退したチームと決勝トーナメントに進出したチームの違いをデータに基づいて分析する、といった内容が盛り込まれています。