
いま、ファッション産業が、環境汚染や大量廃棄など多くの問題を抱えるのをご存知でしょうか。同時に、地球環境の保護を目的に、サステナビリティ(持続可能性)を意識した活動に取り組むブランドも増加中です。今回は、一般社団法人unistepsの鎌田安里紗さんにこれからのファッション産業のあり方について伺いました。
「衣・食・住」という言葉があるくらい衣類は暮らしの根本にあり、誰もが無関係ではいられません。一方で、製造段階で起きる問題はブラックボックスになりがちで、消費者が疑問を持つ余地はありませんでした。 しかし、グローバル化が進み、インターネットでさまざまな情報に容易にアクセスできるようになった今、NGOなどの告発により、個人でもその問題点を知ることができるようになってきました。石油産業に次いで環境負荷が高いといわれるファッション産業。業界としてサステナブルに改善するべきタイミングが来ているだけでなく、消費者自身も“知らない”では済まされない時代になっているのです。
「倫理的」という意味のエシカル(ethical)を使った「エシカルファッション」という言葉が使われるようになったのは、1980年代後半のこと。イギリスであらゆる産業の製造過程の問題を開示してほしいというコンシューマリズムが起きたのが発端で、その1つとしてファッション業界にもエシカルの動きが起き始めました。
日本では1990年にアバンティがオーガニックコットンの原綿輸入を開始。1994年には原綿から糸、生地、製品までの一貫供給体制を確立しました。また、1995年にフェアトレードカンパニーが設立され、ピープルツリーブランドでオーガニックコットンをはじめとした衣類やアクセサリーなどを企画・開発・販売。国内にも環境に配慮したブランドが誕生しました。
2000年代半ばからファストファッションが流行し始め、日本でも2009年にその言葉が新語・流行語大賞のトップ10に選ばれました。これによって、衣類の低価格化が進み、生産量が増えるようになりました。
2013年にバングラデシュのダッカ郊外にあるラナ・プラザというビルが崩壊し、死者1100人以上、行方不明者約500人という被害が出ました。このビルには銀行なども入っていましたが、被害者の多くは縫製工場で働いていた若い女性たち。世界的に有名なブランドの洋服を生産するため低賃金で働かされていたこともわかりました。この惨事に対して世界的に批判が起き、サプライチェーンの透明化や労働問題に対する議論が活発になりました。
コットン(綿)は、ワタの種子からとれる白い繊維から造られています。効率よく種子を枯らしてはじけさせて原料をとるため、枯葉剤や落葉剤といった化学農薬が使用されるなど、コットンはあらゆる農産物の中でも農薬の使用率が極めて高く、土壌への影響が懸念されています。
化学農薬や化学肥料は、取り扱う農業従事者へも健康被害が及びます。生産地の中には従事者の識字率が低く、注意書きが読めないまま誤った使い方をしたり、手袋やマスクの対策を取らずに使用してしまうことによる事故も発生しています。
生地を染料で染めるには、大量の水が必要です。国連によると、1本のジーンズを作るのに7,500ℓの水が使われ、業界全体では930億㎥の水が使われています。これは500万人の生存を可能にするほどの規模です。また、水質基準の法整備が十分でない国の場合、化学染料で染まった水が排水として川に流れ出ることも。その水を生活用水として使用していると、健康被害が出る恐れがあります。
現在、洋服の生地になっている素材の中でもポリエステルの占める割合は高く、6割に上ると言われています。ポリエステルは石油由来の素材。石油の枯渇につながるほか、近年問題視されているのが、洗濯などの際に吐き出される微小な合成繊維片(マイクロファイバ−)です。顕微鏡でしか見えないほどの微小なプラスチックとはいえ、年間数十万tのマイクロファイバーが河川に流出していることが推定されており、プラスチック汚染の主要な原因の1つとなっています。
1990年頃までは流通する洋服の半数は国内生産でしたが、現在ではその割合は約2%。生産拠点は中国や東南アジアに広がり、欧米でも同様の現状にあります。そのため、作ってから売るまでのサイクルの中で使われる大量の輸送エネルギーが問題に。飛行機の輸送が主なため、消費量、排出量ともに環境負荷が少なくありません。
ファストファッションの流行によって安価で洋服が購入できるようになり、2000年から2014年にかけて衣料品の生産量は倍増しています。一方で、製造された洋服は約半数が購入されず、廃棄処分になっているというデータもあります。消費者も安価に購入できることから“買っては捨てて”を繰り返すことで、環境負荷を高める要因となっています。
ファッションデザイナーのステラ・マッカートニーは、動物愛護家としても有名なポール・マッカートニーの娘として育ち、自身もブランドを立ち上げる際は、レザーやファーを使用しない洋服づくりを実践。代替素材の開発に注力し、植物由来の素材も開発しています。そのほか、循環型への移行や森林の保護などの活動にも力を入れています。
繰り返し使えるクライミングギアからビジネスが始まったパタゴニア。1993年にはペットボトルからフリースを製造し、1996年にはすべての製品をオーガニックコットンに切り替えています。こうした例からもわかるように先進的な取り組みで信頼を得ています。最近では、リジェネラティブ(再生型)オーガニック認証を取得。通常のオーガニック認証よりもさらに土壌の生態系を向上させる取り組みを実践中です。その姿勢で、消費者からも信頼と支持を集め、売上もアップしています。
豊島は、繊維専門商社ならではの活動を展開します。「オーガビッツ」という取り組みでは、世界のわずか1%に満たないオーガニックコットンを10%に引き上げるための活動を実施。また食品廃棄物で染色した「フードテキスタイル」というブランドを展開しています。
ファストファッションとサステナブルを両立させようとしているH&Mは、10年単位で目標を設定。2020年までにオーガニックコットンへの切り替え、2030年までにすべての素材をサステナブルに、2040年までにバリューチェーン(サプライヤーや工場)全体で、環境負荷をプラスに転じる対策を取るとしています。また、NPO団体ファッションレボリューションが発表している労働環境や環境負荷に対する透明性ランキングでも圧倒的1位を獲得しています。
2020年中をめどに使い捨てプラスチックのうち、ショッピングバッグと商品パッケージの85%の削減を目指しています。またサステナブルなジーンズ作りに取り組み、栽培や製造・加工工程の水を減らし、エコストーンによるウォッシングやレーザーによる加工で環境負荷を減らす取り組みをしています。
適切に売上をアップするためにクリエイティビティを発揮し、多様性を保ちながら、あらゆる面で健全なビジネスとして成長させていかなくてはなりません。
オーガニックコットンの使用や再生繊維を利用した素材を開発するとともに、それらをさらにリサイクルして使えるしくみをつくることが求められています。
世界に先駆けてフランスでは衣類の廃棄禁止の法律ができています。廃棄処分ゼロは、ファッション業界が最も取り組まなくてはいけない課題。AIなどのテクノロジーを取り入れた売上予測を導入し、廃棄を減らす努力が必要です。
サプライチェーンの透明性を高め、衣類も食品と同じレベルでトレーサビリティが実現できるようなしくみづくりが求められています。
消費者の意識が変わることでも、ファッション業界を変えることができます。買い物をするときは、つい目先のことを考えがちですが、「本当に着るかどうか」「長く着られるかどうか」「環境負荷がかかっていない衣類かどうか」などを考えてみることも大切です。
今、衣類や布団などの回収ボックスを設置する施設が増えています。駅ビルやショッピングモールなど身近な場所にあるので、チェックしてみましょう。
■BRING(服の回収) https://bring.org/
■グリーンダウンプロジェクト(ダウンの回収) https://www.gdp.or.jp/
リペアや染め直しをして、自分好みにリメイクすることで衣類を長く使うことができます。リペアショップはクリーニング店で請け負っていたり、駅ビルなどにも入っていることがあります。染め直しもインターネットで探すことができます。
■京都紋付(染め直し) https://www.kmontsuki.co.jp
ファッションのサステナビリティに対して、包括的な情報を集める活動を実施。エシカルファッション講座をとおして、ひとりひとりが問題意識を持ち、行動する機会を提供している。
https://unisteps.or.jp/