人口約1300万人、世界屈指の大都市・東京は、東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えてさらなる注目を集めています。今月の「Trace」は、そんな東京がテーマ。そもそも東京って、日本の首都ではない……?
東京が日本の首都であることに疑問を抱く人はいないと思いますが、実は、日本には首都を定める法律はなく、首都圏整備法でも「埼玉県、東京都、神奈川県その他政令で定める県の区域を一体とした区域」として、「首都圏」という文言が使われているだけなのだそう。
もちろん、首都とは国の中央政府のある都市、首府を指しますから、国会や最高裁判所、国の主要な行政機関が集中している東京が首都であることは疑いようがないもの。ただし、明治時代、江戸が東京に改称され、京都から東京に都が移された際には、都を移す意味の「遷都(せんと)」という言葉は使われず、「東京奠都(てんと/都を定めるという意味)」と呼ばれました。政府機関も東京に設けられ、事実上の遷都だったわけですが、正式な声明は出されていないのは意外かも?

23区と26市5町8村からなる東京都。現在の23区の原型となる「区」が設置されたのは1878年のことでした。当時、区が置かれた地域は、現在の千代田区、中央区、港区、新宿区(一部)、文京区、台東区、墨田区(一部)、江東区(一部)で、これらのほかに宿場町だった四宿(品川、内藤新宿、板橋、千住)と、農村地帯の荏原郡、南豊島郡、東多摩郡、北豊島郡、南足立郡、南葛飾郡の6郡380余の町村から構成されていました。
1932年には20区が新たに設置されたため、それまでの15区と合わせて一時期、東京には35区もの区画があったそう! それが変わるのは戦後のこと。35区から22区へ整理統合が検討される中で、板橋区から練馬区が分離し、1947年に23区となったのです。ちなみに現在の23区は、区が設置された当時の15区6郡の範囲に相当するんです。

さて、東京を代表する食文化といえば、おすしやそば、うなぎ、天ぷらなど、江戸時代に庶民が屋台で楽しむファストフードとして始まったものが多くあります。なかでも「江戸前」は、江戸城の前面、日本橋や京橋あたりと、その前面に広がる海で獲れた魚介のおすしを指すことが一般的ですが、そもそもはうなぎのことを指していたってご存じでしたか?
江戸時代中期、天然うなぎの宝庫だった江戸前で獲れるうなぎのことを江戸っ子は江戸前と称していたのだそう。江戸前で獲れるうなぎ以外は「旅鰻(りょまん・たびうなぎ)」と呼ばれ、ワンランク下とみなされていたようですが、江戸も後期になると、コハダやアジ、イカ、アカガイ、ハマグリなど、江戸前で獲れる鮮度の良いおすしのタネを指すようになったといいます。

東京は高層オフィスビルやマンション、住宅が所狭しと連なる大都会ではあるものの、奥多摩や離島などには美しい大自然が残っています。特に、東京(内地)から1000km、大小30余の島々から成る小笠原諸島は、大陸と一度も地続きになったことがなく、「東洋のガラパゴス」とも称される海洋島です。
日本で4番目のユネスコ世界自然遺産にも登録されたこの島に人が定住し始めたのは、江戸時代後期のことでした。はじめは欧米人や太平洋諸島の人々が住み始め、その後、幕府や明治政府の調査により、1876年には国際的に日本の領土と認められます。かつて、英語で「ボニンアイランド」と呼ばれていたのは、江戸時代に「無人島(ぶにんじま)」と呼ばれていたのがBonin(ボニン)と訛ったからだとも。現在、民間人が暮らしているのは父島と母島ですが、周辺の島々も兄・姉・弟・妹・孫・姪・嫁……と家族にちなんだ名前が付けられているのもユニークなところ。小笠原諸島北部の聟島(むこじま)と、南の嫁島の中間に位置する島は、媒酌人の意味からなこうど(媒島)と名付けられているんです。

電車や地下鉄、路線バス、タクシーとさまざまな交通手段がある東京ですが、モノレールも要の交通のひとつ。都内では現在、空の玄関口である羽田空港と都心側を結ぶ東京モノレールや、多摩地域の住民の足となっている多摩都市モノレールが運行しています。
そもそも東京でモノレールが初めて運行したのは1957年12月。上野動物園内の東園駅と西園駅の0.3kmを結ぶ上野懸垂線(1編成2両/現在は運行休止中)が、東京都交通局によって開業されました。当時、深刻化する都内の渋滞を緩和し、路面電車に代わる次世代の交通手段としてモノレールが研究されていたことから、同線は実証実験の目的で導入されましたが、高度成長で交通需要が急増し、モノレールを予定していた地域でも急ピッチで地下鉄の整備が進められたため、モノレールが新たな交通手段として普及することはありませんでした。
現役で運行されている東京モノレールは、昭和時代の東京オリンピック開催に合わせて1964年に開業されたもの。羽田空港と都心側の浜松町を結ぶ同線、当初の計画では新橋と羽田空港を結ぶ予定でしたが、反対運動などの影響で中止され、その後も路線の延伸や新橋駅、東京駅への乗り入れが度々構想されるものの立ち消えになっています。

2020年3月には、半世紀ぶりの山手線の新駅となる高輪ゲートウェイ駅が開業したばかり。同駅は品川駅と田町駅のあいだに開業し、構内には完全キャッシュレスの無人AI決済店の出店をはじめ、AIを活用した警備ロボット、清掃ロボットなどの導入も予定されています。また、2020年6月には、東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅も開業予定。こちらは霞ヶ関駅と神谷町駅のあいだに誕生する駅で、日比谷線の新駅は全線開業以来初、約56年ぶりのこととなるのだそう。
電車、地下鉄の新駅登場でますます交通機能が強化される東京ですが、水路を中心に栄えた「水の都」の江戸の航路も再び脚光を浴びています。現在、都内ではクルージングを目的とした水上バスが隅田川と東京湾岸で運航されていますが、都内の舟運(河川や運河を利用した水運)を通勤の足として利用する実証実験が進められているんです。まだ検討段階ではあるものの、実現すれば古くて新しい都民の足となるかも?
水辺のプロジェクトといえば、湾岸の青海にはクルーズ船の世界的なブームに対応して、大型客船のターミナルの開業も2020年に予定されています。インバウンド客もますます増えそうな東京、次ページではそれぞれの街にフォーカスを当ててみます。