1970年代に現在の女性誌の原型が確立されると、テーマや年齢なども細分化され、女性誌はさらなる多様化を見せます。読モや豪華付録など、今の女性誌の武器ともいうべきトピックにも迫ってみました。
前ページで紹介した『an・an』と『non・no』。そのタイトルの秘密をみなさんはご存じですか? 創刊当時、『an・an』というタイトルは公募で決められ、「五十音の最初と最後を重ねて『アンアン』とした」と発表されていましたが、実はモスクワの動物園にいたパンダのアンアンをヒントにして、「アンアン」という名前で内定していたという話もあるんです。
一方の『non・no』は、アイヌ語で「花」という意味。「花のように愛されたいと願って」この名前が採用されたといいます。
1960年代は『マドモアゼル』(小学館)、『ミセス』(文化服装学院出版局〈現 文化出版局〉)、『マダム』(鎌倉書房)、『ヤングレディ』(講談社)など、カタカナタイトルの女性誌が多く創刊されましたが、『an・an』『non・no』を境に、語呂のよい横文字タイトルの女性誌が登場するようになり、『JJ』(光文社)、『CanCam』(小学館)、『ViVi』(講談社)などにも受け継がれます。
また、ファッションを扱う雑誌といえば洋裁に関するスタイルブックが主流の時代に、『an・an』や『non・no』は当時珍しかったスタイリストを起用し、既製服や小物などを積極的に紹介。店舗名や価格なども記載してファッションやグルメ情報を発信することで、女性誌のカタログ化を推し進めることにもなるのです。
1980年代は雑誌の黄金期。数々の女性誌が創刊され、特に1989(平成元)年に創刊された『クレア』(文藝春秋)や『SPUR』(集英社)は、創刊号の広告収入が1億円を超えたことで社会的な話題にもなりました。
食をテーマにした『Hanako』(マガジンハウス)や、仕事と暮らしをテーマにした『日経WOMAN』(日経BP)のように扱うテーマも細分化され、美容、ウェディング、ネイル、メイクなどを取り上げる女性誌が多数創刊。ターゲットも小学生や50代向けなど、細かく設定されるようになります。
女子大生が牽引していたファッションの世界では、次第に主導権が女子高生の手に。1990年代半ばに登場した『egg』(大洋図書)や『Cawaii!』(主婦の友社)は、一般の女子高生を読者モデル(読モ)として起用し、“カリスマ女子高生”を誕生させるなど、ポケベル、ルーズソックス、プリクラなどに代表されるギャル文化の一大ムーブメントを巻き起こします。
読者モデルが一般的になったのは、1975(昭和50)年創刊の『JJ』が、一般の女子大生や働く女性を誌面で起用するようになってから、といわれています。その後、『CanCam』『ViVi』などの赤文字系雑誌やギャル系雑誌で読モ人気は一気に加速!
2000年代後半からは、女子小学生向けファッション誌『ニコ☆プチ』(新潮社)や、「美魔女」ブームを牽引した40代女性向けの『美ST』(光文社)の登場で、小学生から中高年まで読モが拡大。タレントとは異なる彼女たちの発信力を活用する広告も多く見られるようになりました。
女性ファッション誌の世界で定番となったのが付録。その先陣を切ったのは宝島社だといわれています。同社は2004(平成16)年からすべてのファッション誌に付録を付けることで売り上げを伸ばし、今や他誌でも付録は当たり前。ネット販売のAmazonを見ると、発売日前の予約販売ページに、「表紙」ではなく「付録の紹介ページ」が掲載される女性ファッション誌もあるなど、売り上げに直結する“武器”となっています。
その付録も、トートバッグやポーチといった定番から、リュックサックや衣服、化粧品などプレミアム化が進み、今年3月に発売された少女コミック誌『ちゃお』(小学館)には組み立て式のロボット掃除機が付いたほどなんです!
昭和初期には、婦人誌の代表格だった『主婦之友』と『婦人倶楽部』の間で、付録を巡る争いが繰り広げられていたようです。
まず『主婦之友』が1931(昭和6)年から毎号の別冊付録を始めると、『婦人倶楽部』も対抗。1934(昭和9)年には『主婦之友』が15大付録として、家庭作法の宝典や童話絵本、新式の姓名判断、皇室関連本などを付け、「お買いになる方は、風呂敷をお持ちください」というキャッチコピーで世間を驚かせます。年を重ねるごとに過熱した“付録戦争”は、1942(昭和17)年まで続いたそう……。
国内だけでなく、アジア圏にも展開する日本の女性誌。その口火を切ったのが、1988(昭和63)年創刊の『Ray』(主婦の友社)です。
『Ray』は、需要はあるもののビジュアル的に秀でたファッション誌が存在しなかった中国で、オールカラーのファッション誌の可能性があることを見出し、1995(平成7)年に中国語版『Ray』である『瑞麗服飾美容』を創刊。初版3万部は瞬く間に売り切れ、最終的に15万部を売り上げました。
この成功に続いて、赤文字系雑誌や美容誌、ギャル系雑誌なども中国や台湾、東南アジアなどに進出。雑誌販売をきっかけにして、自誌の“ブランド”を活用したビジネスを展開しているといいます。
一方、国内ではさらなる細分化を象徴する女性誌も登場。その筆頭といえるのが、ぽっちゃり体型の女性のおしゃれを応援する『la farfa』(ぶんか社)です。
同誌は「ぽっちゃり女子のおしゃれ応援マガジン」をキャッチコピーに、2013(平成25)年に創刊されたファッション誌。ぽっちゃりでおしゃれな女性たちをモデルに起用し、大きいサイズの服のコーディネートを提案するという従来にない切り口で、創刊号は約10万部を売り上げる人気を集めました。その勢いは男性誌にも波及し、2015(平成27)年にはぽっちゃり男性向けのファッション誌『Mr. Babe』(大洋図書)も創刊されています。
アジアにも進出し、提案するライフスタイルも広がりを見せる女性誌。SNSを活用して読者参加型の取り組みを行うなど、新しい可能性を広げている女性誌も増えているようです。これからどんな女性誌が世を賑わせるのか、まだまだ目が離せません!
参考文献(順不同)
浜崎広『女性誌の源流ー女の雑誌、かく生まれ、かく競い、かく死せりー』(出版ニュース社)/赤木洋一『「アンアン」1970』(平凡社)/吉田則昭・岡田章子編『雑誌メディアの文化史ー変貌する戦後パラダイム』(森話社)/難波功士『創刊の社会史』(筑摩書房)/長谷川晶一『ギャルと「僕ら」の20年史ー女子高生雑誌Cawaii!の誕生と終焉』(亜紀書房)/各出版社ホームページ 等