日本のプログラミング教育

vol.98

海外事情、教材のルーツは?
知っておきたいプログラミング教育

このページでは、海外のプログラミング教育事情やプログラミング教材のルーツをご紹介します。まずは海外の事情から!

海外のプログラミング教育事情は?

先進諸国でも進められているプログラミング教育。ここで代表的な事例をご紹介します。

イギリス

特に先進的とされているのがイギリス。もともと「Design and Technology」という教科でITをいち早く扱っていたイギリスでは、1995年に「IT」を独立教科として設置し、義務教育期間である初等学校と中等学校の11年間で必修となっていました。その後、2014年には「Computing」(1999年に「IT」から名称変更)のカリキュラムが改訂され、コンピュータサイエンス、IT、デジタルリテラシーの3分野を中心にして、デジタルシステムが動く仕組みやプログラムのつくり方などが学ばれているといいます。


エストニア

人口約130万人と小国のエストニアは、ソ連からの独立後、ITとバイオテクノロジーを重視する政策に取り組み、「Skype」を開発したIT先進国家でもあります。国内企業がプログラマーの確保に苦戦していることなどから、「ProgeTiiger」というプログラムを2012年に導入。義務教育期間と後期中等教育期間を合わせた12年間、公立学校でプログラミングの授業が実施されています。その導入・実施は学校の裁量とはいえ、ロボットプログラムやゲームプログラムを用いて、プログラミングに興味を持たせる活動や、Scratch、Python、Javaなどを用いた授業も一部では展開されているそう。


インド

高いスキルを持ったIT人材が世界中で活躍しているインド。アジアのIT先進国では、義務教育期間の3年生からプログラミング教育が実施され、LOGOを用いた図形描画やアルゴリズム(3〜5年生)にはじまり、QBasicを用いた数値計算(6〜7年生)、Visual Basic言語を用いた四則演算を行う計算機アプリケーションの開発(8年生)といった教育が行われているそう。また、中等教育期間となる9年生以降もC++、Java(9年生)、HTML(10年生)、C++(11〜12年生)と、レベルの高い教育が行われているようです。

誕生は1960年代?教育用プログラミング言語

国内外の教育現場で使われている教育用プログラミング言語。そのルーツは、1960年代に登場した「LOGO」といわれています。教育現場で用いられる代表的なプログラミング教材のルーツを振り返ってみましょう。

<1960年代〜> LOGO

1960年代、児童の思考能力向上を目的に、米MIT(マサチューセッツ工科大学)のシーモア・パパート教授らによって開発され、のちの教育用プログラミング言語に大きな影響を与えました。命令文によって画面上のタートル(亀)を動かし、その軌跡で線画を描くことからタートルグラフィックとも呼ばれています。日本でも1980年代から教育現場で活用され、大阪電気通信大学の兼宗進教授によって日本語版LOGOとなる「ロボ坊」も登場しました。ちなみに「ロボ坊」の後継言語として、2000年には日本語でプログラミングできる「ドリトル」も登場しています。


<1990年代〜> Etoys・LEGOマインドストーム

「Etoys(Squeak EToys)」は、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイが1990年代に開発したオブジェクト指向のプログラミング言語。プログラミング非経験者でも実践できるように、ビジュアル化されたオブジェクトに対して、命令が記述されたパーツを組み合わせていくだけでプログラミングができるものです。
1998年にはMITメディアラボやLEGO社などが協力し、LEGOブロックとコンピュータを組み合わせて、プログラミングやロボットテクノロジーを学べる「LEGOマインドストーム」も登場しました。子ども向けロボットプログラミング教材のパイオニアとして多くの教育機関で利用され、国際的なロボット大会も開催されています。


<2000年代> Scratch

2006年に登場した「Scratch」は、MITメディアラボが「Etoys」をベースに開発したビジュアルプログラミング言語。ブロックと呼ばれる命令の描かれたパーツを組み合わせることで感覚的にプログラミングを体験でき、低年齢向けの「Scratch Jr.」や、「Scratch」をもとにしたタブレット端末で動作する「Pyonkee」などもあります。低年齢でも比較的容易にプログラミングを楽しめ、「Scratch」で作成したゲームを共有できるコミュニティもあることなどから世界中に数多くのユーザーがいます。


<2010年代> Blockly・Swift

「Blockly」はGoogle社が開発したビジュアルプログラミング言語。ブラウザ上で動作するオープンソースのブロック型言語で、こちらもパーツを組み合わせることでプログラミングを学んでいけるものです。一方の「Swift Playgrounds」はApple社が開発したプログラミング言語。iPadやMac向けに開発され、iOS端末やMacで動作するアプリケーションを開発できる言語「Swift」をインタラクティブに学べる実践的な教材として注目されています。

コンテストや“競技プログラミング”も盛況

子ども向けのプログラミング教育が注目されるいま、プログラミングの実力を競うコンテストの世界も盛り上がりを見せているようです。全国の小学生を対象にしたプログラミングの日本一を決める大規模なものや、22歳以下を対象に社会問題や自動運転など自由な発想・アイデアをかたちにしてジャンル不問で作品を審査するものなどさまざま。
また、参加者が制限時間内に同一の課題を解き、正確な記述とスピードを競う競技プログラミングコンテストでは、日本発の「AtCoder」がロシアの「Codeforces」、アメリカの「TopCoder」と並ぶ世界3大大会の1つと評され、毎週末、世界各国からプログラマーが集結し、その実力を競い合っているそう。コンテストの戦績に応じてレーティングが与えられ、上位になれば企業に応募できるサービスがあるなど、初心者からトップレベルまでプログラミングの世界を目指す登竜門にもなっています。

ある調査では2020(令和2)年の子ども向けプログラミング教育市場は約140億円、2025(令和7)年には2倍以上の292億円まで伸張すると見込まれています。親世代が家庭でもプログラミング教育に取り組めるようにと家族向けの教材も登場し、社会人の学び直しの1つとしてもニーズが高まるプログラミング。学び始めるのなら、今からでも遅くはなさそうです。

参考文献(順不同)
松村太郎、山脇智志、小野哲生、大森康正『プログラミング教育が変える子どもの未来』(翔泳社)/文部科学省『諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究』/総務省『プログラミング人材育成の在り方に関する調査研究 報告書』/独立行政法人大学入試センター『平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について』  等

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