ここでは世界地図を中心に、その変遷や近年誕生した“世界地図の新たなスタンダード”についてもご紹介します。まずは世界最古の地図のお話から。
世界に現存する最古の地図といわれているのが、紀元前1500年ごろに描かれたとされる「ベトーリナ地図」です。北イタリア・カモニカ渓谷の岩壁に、現地で暮らしていたカムニ族が描いたという地図は、山麓で暮らす村人の家々や、それらを結ぶ小道、耕地、川などが幾何学的な記号で表現され、この渓谷一帯に数多く残る線刻画と合わせて世界文化遺産にも登録されています。
一方、現存する世界最古の世界地図とされているのが、紀元前750〜500年頃に作成された「バビロニアの世界図」です。こちらはスマホほどの大きさの粘土板に、首都バビロンを中心にユーフラテス川が描かれ、円盤状となった世界の陸地の周囲を取り囲む“にがい川”(海)の外側には、さらに未知の陸地が表現されているもの。こうした地図がこれまでは最古とされてきましたが、約2万5千年前、旧石器時代につくられたとされる「パブロフ図」も近年話題になっているそう。こちらはマンモスの牙に集落や川、丘陵の岩峰が描かれている地図で、地形がチェコのパブロフ市近郊の風景にそっくりなのだとか。ただし、これを地図と見なすかどうかは専門家の間で意見が分かれ、今でも議論が続いているようです。
各時代の人々の世界観が反映される地図。地球が太陽や月と同じように球体であると考えられていた古代ギリシャ・ローマ時代には、天文学者、地理学者のプトレマイオスが著した『地理学』と呼ばれる地理書で、球形である地球を平面上に表現する、円錐図法による世界地図も作成されました。
しかし、中世に入ると地球を球体とする説は神学者から異端とされ、この時代に登場した「TO図」と呼ばれる世界地図は、アルファベットのOの形をした大海(オケアノス)にアジア、ヨーロッパ、アフリカ大陸が囲まれ、それらを分割するように黒海、エーゲ海、地中海がTの字に走っているという、先史時代と似たような世界観に舞い戻ってしまいました。
科学的な考察による世界地図が再び登場するのは、海上交通が活発になった12世紀頃のこと。古代ギリシャ・ローマの科学的知識を受け継いでいたイスラム圏の文化などを介して地理学が復活し、プトレマイオスの地理書がヨーロッパに紹介されると、大航海時代の1569年には私たちにも馴染みのあるメルカトル図法によって描かれた世界地図が、オランダの地図学者メルカトルによって発表されます。
メルカトル図法については学校で勉強した記憶がある人もいると思いますが、改めておさらいしてみると、経線が平行直線に、緯線が経線に直交する平行直線になるように表現する地図の作成方法のこと。航海においては目的地に確実に到着できるメリット(等角航路)があり、大航海時代以降は特に重宝されたものの、赤道から離れるにつれて大陸の面積が拡大してしまうため、北極や南極の形が歪む、ほぼ面積が同じであるグリーンランド、アルジェリア、リビアのうち、赤道から離れたグリーンランドが遥かに大きく表現されてしまうといった欠点もあります。
そのため20世紀の東西冷戦の時代には、高緯度に多かった社会主義国の脅威が誇張されてしまったという指摘もありましたが、こうした世界の見方を変えるため、新たな世界地図も発案され続けています。
例えば、フラードームで有名なバックミンスター・フラーが1946年に考案したダイマクションマップは、地球を多面体上に投影、展開し、歪みを少なくすることに成功した地図。中心も上下の向きも自由に設定でき、「宇宙には上下や南北はなく、外と内だけがある」というフラーの思想を強く反映しているものの、海を途切れないようにすると陸地が分断されてしまうという欠点もありました。
近年、新たに誕生したのがオーサグラフと呼ばれる世界地図です。これは、地球の海と陸地の面積をほぼ正確に反映しながら平面上に展開することに成功した世界地図で、北極・南極を描けない、地形が歪んでしまうというメルカトル図法の欠点を解消したもの。1999年、日本人建築家の鳴川肇らによって考案され、400年以上世界で使われてきたメルカトル図法に代わり、世界のあらゆる場所を中心にした地図をつくることができる“新たなスタンダード”として注目されているんです。
さて、地図といえば触れておかずにいられないのがGoogleマップです。地図の世界のみならず、私たちの生活をも大きく変えたこのサービスが登場したのは2005年のこと。2014年時点でGoogleマップが扱う地図データの総量は25ペタバイト(1ペタバイトは100万ギガバイト)といわれ、今でも増え続けているといいます。
徒歩や電車、自動車での移動に欠かせないツールであるだけでなく、ストリートビューやGoogleアースなど、従来の地図にはない取り組みが独自のテクノロジーやスマートフォンのGPS情報を介して展開されている同サービスですが、なかでも子どもから大人まで世界中の人を魅了しているもののひとつが地図のゲーム化ではないでしょうか。
Googleマップをベースに、二つの陣営に分かれたプレイヤーが陣取りゲームをしていくスマートフォン向けゲーム「Ingress」は、Googleの社内スタートアップで開発が始まったもので、拡張現実技術を利用し、現実空間を移動することで展開される位置情報ゲームとして、2013年のリリースから2年弱で1000万ダウンロードを超えたほど。Ingressを世に送り出し、2015年にGoogleから独立したナイアンティックは、同ゲームをベースに、いまや10億ダウンロードを突破した「Pokémon GO」を共同開発したことも記憶に新しいところです。ゲームをきっかけに多くの人が街に出て、人々と交流しながらコンテンツを楽しむ。かつては考えられなかった地図を介した新たなエンターテインメントが、すでに現実のものとなっているのです。
東日本大震災を契機に、大災害時には避難所や炊き出し、給水所などの情報がリアルタイムにアップデートされるなど、Googleマップをベースにした災害情報や防災マップの取り組みも進められています。また、Googleマップに限らず、各社が開発を進める自動運転技術にも地図技術はなくてはならないもの。人間の創造性と科学技術の結晶である地図、その進化はまだまだ止まりそうにありません!
参考文献(順不同)
織田武雄『地図の歴史 世界篇・日本篇』(講談社)/山岡光治『地図はどのようにして作られるのか』(ベレ出版) /同『地図の科学 なぜ昔の人は地球が楕円だとわかった?航空写真だけで地図をつくれないワケは!?』(SBクリエイティブ)/真野 栄一・遠藤 宏之・石川 剛『みんなが知りたい地図の疑問50 地図はなぜ北が上なの?コンビニのマークが地図記号にないのは?』 (SBクリエイティブ)/若林芳樹『地図の進化論: 地理空間情報と人間の未来』/『別冊太陽 吉田初三郎のパノラマ地図 大正・昭和の鳥瞰図絵師』(平凡社)/『鳥瞰図絵師の眼』(INAXo)/片岡義明『こんなにスゴイ! 地図作りの現場』(インプレスR&D)/アン・ルーニー『地図の物語 人類は地図で何を伝えようとしてきたのか』(日経ナショナルジオグラフィック社)/松岡慧祐『グーグルマップの社会学 ググられる地図の正体』(光文社)/ビル・キルデイ『NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生』(TAC出版)/日本科学未来館(ホームページ) 等
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