大都市ニューヨーク

vol.125

世界に影響を与え続ける
大都市ニューヨーク

約400年前、オランダ移民がアメリカ先住民から60ギルダー相当(20世紀初頭の物価換算で約24ドル)で買い取ったという通説があるマンハッタン島。そのマンハッタンを中心にしたニューヨークは、今や天文学的な価値を生み出す世界経済の中心地に発展しました。世界中に影響を与え続けている大都市の変遷とは?

最初の産業は
ビーバーの毛皮貿易

1609年、オランダの東インド会社に雇われて西インド航路を探していたイギリスの探検家、ヘンリー・ハドソンによって“発見”されたことで、アメリカ先住民が暮らしていた緑豊かなアメリカ東海岸の島は、世界一の経済都市としての歴史が始まりました。マンハッタンという地名は、当時暮らしていたアルゴンキン語族の先住民の言葉で「丘の島」を意味する「マナハッタ」に由来するといいます。
天然の良港だったマンハッタン島の南端には早速オランダ移民が植民地を築き、オランダ最大の都市にちなんで「ニューアムステルダム」と命名。入植からまもなく交易所が造られ、この地で最初の産業となるビーバーの毛皮貿易も始まりました。

その名の通り“防壁”が
ルーツの金融街

オランダ人の入植が進むと、経済発展を支える要所も築かれていきました。マンハッタンを南北に貫くブロードウェイは、今では「ミュージカルの本場」として世界中の観光客で賑わっていますが、もともとは先住民が狩りのために使っていた道で、先住民との毛皮の売買などのために広げられたもの。また、アメリカの金融の中心地であるウォール街は、先住民やイギリス人の襲撃に備えて、島の東側を流れるイーストリバーと西側を流れるハドソンリバーまでをつないだ防壁が由来。これがのちに撤去されてウォール街となりました。
ニューアムステルダムは1664年にイギリスの統治下に入り、国王チャールズ2世の弟で、のちのジェームズ2世であるヨーク公の名を取って「ニューヨーク」と改名。イギリスからの入植者は先住民を追いやりながら、一方で本国からの重税に抵抗するなど、独立戦争(1775〜83年)へのきっかけもつくりました。

ニューヨークは
アメリカ最初の首都

アメリカの首都というとワシントンD.C.のイメージが強いですが、独立戦争後、最初の合衆国首都になったのはニューヨークでした。しかし、ニューヨークが首都だったのは1年ほど。対立していた南部との妥協策として1790年にフィラデルフィアに移り、1800年にはより南部寄りの土地に首都が建設され、初代大統領の名を冠してワシントン(翌年にワシントンD.C.に)と命名されました。
首都でなくなったとはいえ、ニューヨークには移民が大量に流入し、1792年にはウォール街にニューヨーク証券取引所が開設。南北戦争(1861〜65年)後は富を得ようとさらに多くの人々が集まり、鉄道網の整備、ブルックリン橋や発電所の建設、産業革命で莫大な富を得た富豪たちの進出などにより、金融の中心地として栄えました。

ニューヨークをニューヨーク
たらしめた都市計画

マンハッタンといえば格子状の街路網が大きな特徴です。これは島の南部に人が集中していた時代に、荒れ地だった北部を造成して格子状に整備し、美観や規則性、利便性の向上を目的とした1811年のグリッドプランに基づいたもの。人口が10万人に満たない時代に100万人以上もの人々が住めるようにする壮大な都市計画は、不動産売買を容易にするなど効率的な経済活動を生み出しました。
この計画を立ち上げた当時のニューヨーク州知事デウィット・クリントンは、ニューヨークと五大湖を水路で結ぶという事業にも挑戦。無謀とされながらも580kmに及ぶ運河が1825年に開通すると、内陸地方との物資輸送の利便性が格段に向上しました。

環境・経済価値も高まる
最先端都市に

20世紀初頭にかけて次々と高層ビルが建設されたニューヨーク。ニューヨーク市(マンハッタン)は近隣のブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタテンアイランドと合併し、マンハッタンと各地域をつなぐ橋の開通や地下鉄の発展も後押しして、世界屈指のメトロポリスになりました。
1920年代はジャズ、映画、ミュージカル、美術といった文化が花開き、マスメディアの中心地にもなりますが、第一次世界大戦後の好景気と世界恐慌、第二次世界大戦など激動の時代を挟み、ニューヨークに再び活気が戻ってくるのは1950年代に入ってから。さまざまな国際的企業が本社を構え、国連本部の誘致にも成功したことで政治的にも世界の中心地になり、公園や動物園といった公共施設の整備や高速道路、橋の建設なども進められます。製造業の転出による雇用の減少や人種間対立などによって1960年代には経済が失速、治安も悪化しますが、ビジネスを優遇する急進的な改革でサービス業が急成長し、外国資本が流れ込みました。

同時多発テロ(2001年)やリーマンショック(2008年)、新型コロナウイルスなど、数々の脅威にさらされながらも世界に影響を与え続けている中、近年は気候変動への取り組みにも積極的です。2000年代から浸透してきたグリーンビルディングは、エネルギーや水などの資源を効率的に使い、環境にも人にも配慮した建物のこと。新築、既存にかかわらず基準を満たした建物はグリーンビルディングと見なされ(LEED認証)、1931年に完成したエンパイア・ステート・ビルも改修を施して認証を受けています。環境価値が大きく、資産価値も上がるため、LEED認証は世界中に広がりつつありますが、新築建物のガス使用を禁じる法案成立や、低中所得者向け住宅における太陽光発電設備のプロジェクト推進など、ニューヨークはクリーンな都市としても存在感を高めています。

世界の大都市、驚きのデータ

[ミリオネアは30万人以上!]

100万ドル以上の投資資産を持つ富裕層が最も多いのがニューヨーク。2023年の調査では、その数は34万人で、2位の東京の29万人を大きく引き離しています。ちなみに資産10億ドル以上のビリオネアは、ベイエリア(サンフランシスコ)に次いでニューヨークが2位!


[生活費の高さも世界トップ…]

シンガポールと並び、世界で最も生活費が高いニューヨーク。年収10万ドルでも税金や生活コストを考慮すると、実質的な手取り額は3万5,791ドル相当(2023年3月)で、全米一生活コストが高い都市とされています。マンハッタンの賃料中央値は月額3,942ドル(2022年5月)。世界の各都市の1日あたりの出張費でも、高額な宿泊費などの影響で796ドル(2022年12月)と最高額です。

2023年は、世界的企業Googleがハドソン川沿いに2300億円で購入した新オフィスのオープンも控えているそう。海外への渡航がしやすくなった今、進化を止めない最先端都市ニューヨークの“現在”を感じに、一度訪れてみるのも良いかもしれません。

参考文献(順不同)
上岡伸雄『ニューヨークを読む 作家たちと歩く歴史と文化』(中央公論新社)/大阪市立大学経済研究所編『世界の大都市4 ニューヨーク』(東京大学出版会)/賀川洋『図説 ニューヨーク都市物語』(河出書房新社)/朝日新聞(ホームページ) 等

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