日頃、当たり前のように楽しんでいる回転寿司ですが、その裏には様々な試行錯誤や「なるほど!」と頷きたくなるエピソードがたくさんありました。思わず人に話したくなる、回転寿司トリビアをご紹介します。
店内に入ると、まず目に入るのが回転寿司のレーン。これはお店によって大きさがまちまちです。基本的には受注生産のため、お店の大きさに合わせたレーンが作られているそうです。では、日本で最も長いレーンと短いレーンはどれほどなのでしょうか?
まず、最も長いのが広島県にある「おんまく寿司五日市店」。全長147メートル、310の客席数を誇るマンモス店舗です。寿司が1周するまでにかかる時間は約28分。常時、数十人の職人がレーン内でお客様に対応しているそうです。一方、もっとも短いのは大阪・鶴橋にある「うをさ」で、何と5.6メートル。ネタケースを囲むように、レーンが回っている様は、まるでおもちゃのようです。こちらは1周するまでに1分10秒。もはや回転させる意味さえ考えさせられてしまいます。
また、レーンに関しては様々な噂が飛び交っています。よく聞くのが、「レーンは絶対に右回り」という噂。確かに、日本人は右利きが多いため、右回りが多いそうですが、お店の構造上左回りのところもあるそうで、特に決まりはないとのこと。また、レーンのスピードに関しては「分速5メートル」というのがスタンダードだそうです。
寿司のレーンで成功を収めた企業は、その領域を広げようと他の業態にチャレンジしたそうです。これまでに回転させたものは、焼肉や中華などなど。しかし、当初は物珍しさから繁盛するものの、リピーターが付かず…どれも長続きはしませんでした。この他にも、居酒屋でよく見かけるタッチパネルの注文方式は回転寿司業界から生まれたもの。先進的な試みが他の業態にも影響を与えているようです。
全国一律で同じ味が楽しめる大手の回転寿司チェーン。その一方、各地に根ざしたグルメ回転寿司店に注目が集まっています。その中でも、群を抜いてレベルが高いのが石川県。特に県庁所在地である金沢市には「もりもり寿し」、「金沢まいもん寿司」「すし食いねぇ!」などの高級感をウリにした人気店舗が多数揃い、観光客で行列ができるほどの人気です。というのも、金沢は街中と漁港の距離が近く、1日に2回活魚を仕入れる「THE 金沢システム」が確立されているため。
さらに、レーンに流れてくるのは、のど黒や白海老、赤西貝などの、他の土地の回転寿司では決して食べることのできない高級ネタ。その上に金箔などをあしらう豪華絢爛さも魅力です。近年では金沢の店舗が首都圏に進出しており、その勢いは今後ますます加速しそうです。
各地でご当地グルメが話題を集めていますが、回転寿司にもその流れがきているようです。各地の漁港で取れた地魚や、その土地ならではの食材を使ったお寿司が増えています。旅行で、その土地でしか食べられない回転寿司を楽しむ…というスタイルも定着するかもしれません。
北海道…ししゃも、ホッケ、時不知、ソイ、八角 など
青森…幸神メヌケ、焼きウニ、いちご煮 など
宮城…牛タン寿司、フカヒレ寿司
静岡…ゲボウ、アブラボウズ、生桜海老、生シラス など
石川…のど黒、赤西貝、香箱ガニ など
山口…とらふぐ
沖縄…イラブチャー、海ぶどう、シャコ貝 など
寿司はもちろん、楽しいのがサイドメニュー。子ども向けのおやつやスイーツ、お酒に合うおつまみなどが代表的ですが、近年では驚くようなメニューも増えています。例えば、北海道を中心に展開する「ダイマル水産」で人気なのが「旭川しょうゆラーメン」。同じく「くら寿司」でも、「7種の魚介醤油ラーメン」というメニューを出しており、大変人気です。
この他にも、居酒屋顔負けのメニュー数を揃えているお店も多く、いまや回転寿司はただお寿司を食べるだけでなく、お酒を楽しむスタイルも増えてきています。この背景には、魚の高騰や消費者の低価格志向によって、お寿司だけでは利益を得るのが難しくなっているという事情があるそうです。
全国にはあまり知られていないユニークな回転寿司店が数多く存在します! 回転寿司店を知り尽くした米川さんが選んだ、個性豊かな回転寿司店をご紹介します。
愛知県豊川市。釣り人が持ち込んだ魚を買い取って、お寿司にして提供している。店頭には「豊川の桑野さんが五ヶ所湾で釣ったヒラマサ」などのポップが並んでいる。買取価格は持ち込まれた量や魚の種類によって異なる。
高知県を中心に展開するグルメ回転寿司。自社で抱えるマグロ漁船で獲ってきたマグロを中心に提供している。生まぐろ、ヅケまぐろなどのメニューに加え、まぐろコロッケや南蛮漬けなどの珍しいまぐろメニューも豊富。
長崎県諫早市・島原市にある回転寿司店。メニューに使用する野菜と米を自社農園で生産している。もちろん、お寿司に使用する魚も鮮度が自慢。「えびキューフレンチ」、「わさびナス」などの変わり種メニューも取り揃う。
水産会社やまぐろ問屋が回転寿司をはじめるケースは多いですが、その逆がこちら。美味しい寿司を食べてもらいたい一心から、水産センターを立ち上げたというお店。神奈川県や東京都西部にて展開しています。
数ある外食産業の中でも、独自の進化を遂げてきた回転寿司。その変遷を見守ってきた米川さんは「回転寿司はアミューズメントパークである」と言います。お寿司が回ること、時代に合わせて新たな発明が生まれ続けていること。こういったワクワク感こそが、回転寿司が支持される大きな要因なのかもしれません。子どもも大人も、ご年配の方も、世代を超えて楽しめる回転寿司は、まさしく日本が誇るレジャーの一つ。今後も世間のニーズに応じて、回転寿司は進化し続けるでしょう。
取材協力
米川伸生
回転寿司評論家
1966年東京生まれ。回転寿司評論家・日本回転寿司協会専務理事。大学卒業後、泉麻人事務所にて放送作家、ライター業に従事。2000年から回転寿司評論家としての活動をスタート。2007年には「TVチャンピオン2 回転寿司通選手権」(テレビ東京系)にて優勝。これまでに訪れた回転寿司店はのべ3000店を数える。近著に『ご当地直送!絶品回転寿司』(角川マガジンズ)『回転寿司の経営学』(東洋経済出版社)がある。
撮影協力:独楽寿司 大和本店